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2023.02.10

Readyyy! 第一部完結編 The Gold ~19 moments~ 第2章



  カシャッ、カシャッ

GALAXY TOKYO/メンバーA
「ファンのみんなには
 突然のことで驚かせちゃって
 申し訳ない気持ちでいっぱいです」

「でも、俺たち3人の仲に
 何か変化があったわけでもないし
 ステージを降りたいと思ってるわけじゃ
 ないってこと、知っててほしいです」

GALAXY TOKYO/メンバーB
「むしろ、変化がないことに
 ちょっと不安になって来ちゃったんです」

「ずっとゴールドステージ1位で
 やらせてもらって、国内外の
 たくさんの人たちに応援してもらって……」

「今の僕たちは
 ちゃんとそのポジションに見合う
 パフォーマンスができてるのかな?とか」

「ファンのみんなの応援に、しっかり
 お返しできてるのかな?とか」

「みんなが育ててくれた
 『GALAXY TOKYO』っていう器に
 甘えてるんじゃないか、とか」

GALAXY TOKYO/メンバーC
「だから3人で話し合って決めたんです」

「もう一度自分たちを……
 アイドルとしての自分を見つめ直すために
 新しい世界に旅に出てみよう、って」

  カシャッ、カシャッ




GALAXY TOKYO/メンバーA
「みんなには寂しい思いをさせるかもだけど
 ……でも、どういう形であれ
 俺たちはきっとまた、ステージに立つから」

「どうか、俺たちを信じて
 見送って欲しいんだ――」






クラスメイトA
「ねえ、見た?
 今朝のGALAXY TOKYOのニュース」

クラスメイトB
「見た! びっくりだよね。
 別にファンじゃなかったけど
 なんかちょっとショックっていうか……」

淳之介
「……」

小麦
「真田くん。次、体育だよ?」

淳之介
「あー、うん。行く行く!」

小麦
「すっごく話題になってるんだね。
 GALAXY TOKYOのニュース」

淳之介
「ね。……なんていうか
 こういう日って、本当に来るんだね」

小麦
「?」

淳之介
「いや、ほら。このタイミングで
 活休するなんて誰も思わないっしょ。
 一番絶好調の時に」

「絶対だ、って思って疑わなかったものが
 急にいなくなるって
 結構衝撃だったし……」

「どんなに人気のあるユニットでも
 表には見せない苦労とか葛藤とか
 色々あって」

「どんなことにも終わりはあるんだって
 突きつけられた……的な」

小麦
「うん」

「……でも、どうしてかな。
 ぼくには、哀しいだけのニュースには
 見えなかったんだ」

淳之介
「え?」

小麦
「ぼくも最初はびっくりしたよ。
 でも、3人の話を聞いて
 すごいなあって思っちゃった」

「……3人もきっと、この決断には
 すっごく悩んだと思うんだ。
 哀しむ人がいるのは、わかってただろうし」

「それでも、ファンの人たちの前で
 ちゃんと『アイドル』でいるために――」

「アイドルとしてやり遂げたいこととか
 失くしたくない想いを守るために
 選んだ選択だと思うから」

「だからぼくはね、きっとあの3人は
 誰よりも真剣にアイドルっていうお仕事に
 向き合ってたんじゃないかなって思うんだ」

「じゃなきゃ、人気がある時にあんなこと
 簡単には言えないよ」

淳之介
「……たしかに、綾崎の言うとおりかも」

「もらった声援に対して
 胸張ってステージに立てるかどうか……
 それを真剣に考えての結果だもんね」




テレビ局関係者A
「どうするんすかね、今年のゴールドフェス。
 今朝の記者会見まで、どこにも
 話してなかったそうじゃないですか」

「事務所でもレコード会社でも
 極秘の取り扱いだったようで
 限られた人しか知らなかったとか」

テレビ局関係者B
「まあ、特にヴォーグさんなんかは大手だから
 情報が行き渡らないのはわかるけど……
 それでも、極秘にする必要あったかねぇ」

「フェスの運営だけじゃなくて
 関係各所が今頃大慌てだろうな」

安吾
「どこもかしこも
 この話ばかりですね」

プロデューサー
「それだけ衝撃だったんですよ」

安吾
「そうですね。まあ……
 俺も、活動休止の理由には驚きました」

「メンバー間の方向性の違いや
 アイドルであることを辞めたいという話なら
 わかりますが……」

「自分自身のアイドルとしての在り方を
 見つめ直すために、帰る場所を絶つなんて
 生半可な覚悟でできるものじゃない」

プロデューサー
「……」

安吾
「俺は事務所を……
 この業界を辞めようとしていた時に
 偶然あのふたりに出会って
 それで、今があるようなものなので」

「RayGlanZじゃなかったら
 きっとアイドルにはなっていません」

「だから俺の場合、RayGlanZの香坂 安吾を
 辞めてまで、アイドルの在り方を
 探したいとは、思わないでしょうから」

プロデューサー
「……安吾さん」

(そうだ。今がすべてで
 この瞬間を大事にしているのは
 なにも安吾さんだけじゃない)

(以前千紘さんも、何度でもやり直せるって
 考えは好きじゃないと、言っていたっけ)

(やっぱりみんなには
 後悔しないような『今』を――
 最善の『未来』を示してあげたい)




タクミ
「みんなザワザワしてるね」

佐門
「それはそうだろう。
 ここ数年揺るがなかった
 ゴールドステージ1位のユニットが
 急にいなくなるんだ」

比呂
「でもでも
 オレらは普段どおりでいような!」

「こんな時だからこそ笑ってたいし
 オレらのファンの人たちにまで
 落ち込んでほしくないしさ」


「うん、そうだね」

「予想しなかったことが起こるのは
 仕方ないし、避けられないけど……」

「だからこそ
 いつもどおりでいることは、誰かにとって
 きっと価値のあることだと思うよ」

「……お茶入ったけど、みんなもいる?」

タクミ
「うん、いる。
 差し入れのお茶菓子にも合いそう」

佐門
「感心するくらいマイペースだな。
 まあ、その方がいいか」

光希
「でも俺たちは、このこと
 ちゃんと忘れないでいような」

佐門
「ん?」

光希
「あ、いや、なんていうか……」

「こういう時のファンの人たちの気持ちとか
 アイドルの気持ちとか、さ」

「俺たちだって歳をとるし、いつか
 アイドルを辞めなきゃいけない日も来る」

「それは否定できないし……
 いつ何がどうなるかわかんないから
 終わりなんてないって
 無責任なことは言えない」

佐門
「……ああ、それはそうだが」

「まさかお前の口から
 そんな言葉が出てくるとは」

光希
「あははっ。俺だってもう
 まったくの新人じゃないからな」

佐門
「……」

光希
「でも、いつか来るかもしれない終わりに
 不安になってもらいたくはないだろ?」

「だからどんな時でも
 ありのままの俺たちで向き合って
 その時その時にできる
 100%を出し切ってさ」

「それで、できるかぎり
 たくさんの夢を届けたいんだ」

佐門
「そうだな」

「そのためにも……」

光希
「そのためにも?」

佐門
「いや、なんでもない」

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




  コンコン

プロデューサー
「すみません、遅くなりました」




亜樹
「あ。Pちゃんおつ〜」

事業部長
「よし、これで全員揃ったな。
 今日集まってもらったのは……
 ひとつみんなに提案があってだ」

「時間もないから前置きは省くが……」

「みんなももう知っての通り
 ゴールドステージ不動の1位である
 GALAXY TOKYOが活動休止をする」

一同
「……」

事業部長
「それがどういうことかわかるか?」

安吾
「玉座が空き……
 それを皆が一斉に狙う、ですか?」

事業部長
「そのとおり」

「おそらくこれまでの均衡は崩れ
 ゴールドステージの
 ランキング争いは激化する」

プロデューサー
「……」

事業部長
「現状の5ユニットのランキング状況。
 それから、今後予定している仕事や
 施策スケジュールをふまえるに……」

「これまで通りの流れでいけば
 きみたちのゴールド入りは目前だった」

「ユニット毎に差異はあれど
 ここから1〜2ヶ月の間に
 ステージアップするユニットが出ても
 おかしくないくらいに」

「そうだったな?」

プロデューサー
「……はい。そういう読みでした」

事業部長
「でも状況は大きく一変した」

「これから数ヶ月。空いた玉座の争奪戦に加え
 繰り上げでステージアップを狙うところも
 一気に増え、どこの事務所も
 あの手この手で施策を打ってくるはずだ」

佐門
「なるほど」

「当初のプランのままでは太刀打ちできず
 乗り遅れれば大幅に見込みが外れる、と」

事業部長
「ああ。しかもそれだけじゃなく
 この機を逃せばゴールドステージの門が
 遠退くと言っても過言ではない」


「なんでだよ」

十夜
「より多くの人間の作為や思惑が
 干渉してくるのがゴールドステージ」

「均衡とやらを保ちたいならば
 ころころと顔ぶれが変わることを
 嫌う連中もいるはずだ」

「T.O.Pで学んだことを忘れたか」


「ゴールドステージの中で
 大革命が起こったことなんて
 見たことないもんね〜」

事業部長
「そこでうちも
 5ユニット全てにおいて
 プロデュースの強化をしていく
 必要があると考える」

「現状はプロデューサーがひとりで
 5ユニットをプロデュースする体制だが
 無理を強いてきたことは否めない」

「ここまで各ユニットが大きくなった今
 その問題も明らかに顕在化してきている」

一同
「……」

事業部長
「というわけで、これまで補えきれずにいた
 部分のカバーと、さらなるプロデュースの
 強化をめざす第一歩として……」

「――プロデューサー業の分担を提案したい」

プロデューサー
「……え」

光希
「ちょ、ちょっと待ってください!
 それってどういう……」

事業部長
「ユニットごとにそれぞれ
 プロデューサーを立てるという意味だ」

一同
「!?」

比呂
「じゃあPちゃんは!?」

事業部長
「5ユニットのうち
 どこか1ユニット専属の
 プロデューサーになってもらう」

千紘
「はァ? こないだ社長が言ってたことと
 話が違ェだろ」

事業部長
「もちろん、最終的に社長の承認はもらう。
 でもその前に、プロデューサーと
 みんなの意見を聞いておきたいんだ」

亜樹
「……え、俺普通にイヤだけど」

「Pちゃんがプロデューサー
 じゃないのなんて絶対ヤダ」

「摩天ロケットだけじゃなくて
 他のユニットもみんな、Pちゃんがいい」

弦心
「俺も……考えられません」

プロデューサー
「……」

凛久
「ちょっとプロデューサー。
 なんか言えよ、当人だろ」

プロデューサー
「あ、っと……その……」


「おい、プロデューサー!」


「折笠、全。落ち着こう」


「けどよ」

事業部長
「気持ちはわかるが、これは意地悪で
 言っているわけじゃないんだ」

「活動の幅が広がり知名度があがれば
 必然的に仕事も増える。
 その分プロデューサーひとりに掛かる負担も
 大きくなっている」

プロデューサー
「負担だなんて、そんなこと……!」

事業部長
「……言い方を変えよう」

「活動開始当初と遜色なく、18人それぞれと
 向き合う時間がとれてるか?」

「身はひとつしかないんだ。
 付き添える現場の数にも限界があるだろう」

「それは、ここにいる全員に
 思い当たる節があるはずだと思うが」

プロデューサー
「……っ」

事業部長
「5ユニットの今後を考えても、今が
 大事な局面であることには変わりないんだ。
 全員、慎重に考えてほしい」

凛久
「でも……」

事業部長
「わかった。じゃあこうしよう。
 次年度までに、1ユニットでも
 ゴールドステージに上がることができたら
 この話はもうしない」

「本来の読みでは、不可能ではないはずだ」

「でももしそれが達成できなかったら
 前向きに検討してもらう。いいな?」

一同
「……」




千紘
「だから、言わんこっちゃねェ。
 ややこしいことになるっつった途端コレだ」

凛久
「でもアイツ、なんで
 何も言わなかったんだろ」

「この間は、俺たちのプロデューサー
 やめるつもりはないって
 はっきり言ったくせに」

十夜
「状況が変わったんだ」

「奴にも責任がある。
 お前たちのように、感情だけで発言できる
 立場にないことくらいわかってやれ」

凛久
「でも……」

タクミ
「それに、完全に決まったわけじゃない」

淳之介
「そっスよね」

「そのためには……
 ゴールドステージ、入んなきゃっスね」




プロデューサー
(事業部長の言うことは正しい)

(時間もチャンスも有限なんだ)






木虎
「彼らの一番の理解者であるキミが
 傍にいてくれることが
 彼らにとって何よりの拠り所になるよ」

  ◇◇◇◇◇

木虎
「彼らを守れるのは”大人”じゃない」

「他の誰でもない、キミだよ」

「彼らの覚悟、大事にしてあげて」






プロデューサー
(みんなは、アイドルである道を選んで
 どんな未来でも戦うことを選んだ)

(その覚悟を尊重するなら
 未来に繋がる可能性が
 大きい方を選択するべきだ)

(でも……)




プロデューサー
「そう簡単に割り切れるはず――……」



◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




舞台演出家
「――今日は顔合わせのあと
 軽く本読み入るから、そのつもりで」

役者たち
「はい」

プロデューサー
「では、蒼志さん。
 また終わった頃に迎えに来ますね」

蒼志
「ありがとうございます」




プロデューサー
「お疲れさまです」

事務所スタッフ
「あ、お疲れさまです」

「あの、先程プロデューサー宛に
 お電話があったんですけど」

「それが、合同会社ランクスターさんで……
 戻られたら、掛け直して欲しいと」

プロデューサー
「え? ランクスターって
 あの、ランキングの運営の?」

事務所スタッフ
「はい」

プロデューサー
「わかりました。
 すぐに折り返します」






社長
「それで、先方はなんて?」

プロデューサー
「……はい」

「来月、毎年恒例のゴールドステージの
 フェスが開催されるのは
 社長もご存知かと思います」

社長
「うん。
 ゴールドステージの選ばれたアイドルたちが
 一堂に会する、大きな音楽フェスだよね」

プロデューサー
「はい」

「なんでも、GALAXY TOKYOの一件で
 出演枠に空きが出てしまった
 らしいんですが……」

「その代役の有力候補として
 うちのアイドルの名前があがっていると」

事業部長
「どういうことだ?
 そもそもあのフェスは、ゴールドステージの
 アイドルしか出られないはずだろう」

プロデューサー
「はい。でも、フェスの準備期間の都合上
 ある程度アテをつけておかなくては
 ならないそうで」

「そこで、じきにゴールドステージに
 上がれるであろうアイドルとして
 白羽の矢が立ったそうです」

「あの4人なら……」

「――摩天ロケットなら
 それが可能だろう、と」

社長
「……」

プロデューサー
「詳しくは、本人たちも交えて
 直接説明したいと。
 後日、寮にお見えになるそうです」

社長
「……わかった」

「喜ばしいことではあるけど
 慎重に考えようか」

「進捗あったら、また報告して」

プロデューサー
「わかりました。
 では、失礼します」

  ……パタン

  ◇◇◇◇◇

社長
「……」

  プルルルルル、プルルル

社長
「もしもし。豪か」

「ランキングの運営会社から
 コンタクトがあったよ」

「……ああ。
 今はまだ現場レベルだが、話によってはね」

「後日Shirasu Houseに
 スタッフが見えるらしい」

「ああ、頼んだよ」




――数日後

秋霜
「プロデューサー、見えたでー」




ランクスター/伊吹
「――改めまして、合同会社ランクスター
 アイドルランキング運営事業部の伊吹です。
 今日はお忙しい中すみません」

プロデューサー
「いえ、とんでもないです。
 こちらこそ、ご足労いただいてしまって」

蒼志
「はじめまして。
 摩天ロケット・リーダーの
 藤原 蒼志と申します」

「こちらはメンバーの伊勢谷 全。
 真田 淳之介、高千穂 亜樹です」

全・淳之介・亜樹
「よろしくお願いします」

プロデューサー
「あの……もしご迷惑じゃなければ
 今後のためにも、他の4ユニットも
 ご挨拶させていただけないでしょうか?」

ランクスター/伊吹
「ええ、もちろんです」

「なんなら、同席していただいても
 構いませんよ」

「突然のお話でしたし、今回の件が
 どういったいきさつなのか
 きっと気にされている方もいるでしょう」

プロデューサー
「……ありがとうございます」

「では、お言葉に甘えて」

◇◇◇◇◇

ランクスター/伊吹
「それでは本題に入りますが……」

「今回は急なお話で、皆さん
 さぞ驚かれたことでしょう」

一同
「……」

ランクスター/伊吹
「ですがもちろん、このようなお話を
 させていただくには、理由があります」

「今回、ゴールドフェスへの出演者を
 一部再選出するにあたり
 シルバーステージ上位のアイドルに関して
 様々な情報を集めさせていただきました」

「その中で、摩天ロケットさんに目が留まり
 ヴォーグさんに問い合わせたところ
 今後の施策内容としても申し分ないと判断し
 お声がけした次第です」

全・淳之介・亜樹
「おお……!」

小麦
「わぁっ、すごい!
 ぼくたちも頑張らないとね、凛久!」

凛久
「今は黙ってろって」

ランクスター/伊吹
「プロデューサーさんや皆さんとしては
 今回の件、いかがお考えでしょうか?」

プロデューサー
「ありがとうございます。
 お話はとても光栄です」

淳之介
「でも、そのフェスって
 ゴールドステージの人たちしか
 出れないんスよね?」

「選んでもらったとしても、もしオレらが
 フェスまでにゴールド上がれなかったら
 どーすんスか」

ランクスター/伊吹
「そうですね。ご懸念はごもっともかと」

「おっしゃるとおり、フェスには
 ゴールドステージのアイドルしか
 出演することはできません」

「ランキングを改ざんし
 不正をすることもできませんので
 もし期限までに昇格できない場合は
 当然ステージには上げられません」

蒼志・全・淳之介・亜樹
「――」

ランクスター/伊吹
「ですから皆さんの出演に関しては
 フェスの直前……ゴールド入りをきちんと
 見届けてから発表しようと考えています」

「“ゴールドステージ期待のルーキー
 緊急参戦“と、フェスの目玉として」

「なので万が一ゴールド入りが
 叶わなくとも、支障はありません」

「これらの条件に関して
 皆さんが納得いただけるのなら――」


「……なんかヤだよな、ソレ」

蒼志・淳之介・亜樹
「?」


「だってよ。それって
 失敗しても逃げれるってことじゃねぇか」

「せっかくやんなら
 ダメだった時のことなんて
 考えたくねぇっつーか」

「何がなんでも成功させてやりてぇっつーか」

ランクスター/伊吹
「ふふっ、頼もしい限りです。
 それに、色々と申し上げましたが……」

「ヴォーグさんからも、皆さんなら
 絶対にゴールドステージに上がれるという
 太鼓判を押されています」

「先程説明した通り
 今後の施策方針を、これまでに蓄積してきた
 独自のランキングデータに照らし合わせ
 ランキングの推移も予測しましたが
 可能性は極めて高いと判断しています」

「ですから、皆さんの努力が
 台無しになることは、きっとありませんよ」

淳之介
「じゃあ――……」

佐門
「あの、横からすみません。
 ひとつお伺いしても?」

ランクスター/伊吹
「? もちろん」

佐門
「いくら表向きには支障がないとはいえ
 こいつらが出演する準備は
 水面下で進めるはずです」

「その上で取りやめになるとなれば
 多かれ少なかれ痛手は被るはず」

「その可能性もゼロではないでしょうに
 何故そんな博打を……?」

「現状のランキングを見る限り
 RayGlanZや僕たちSP!CAの方が
 ゴールドステージに近い位置にいます」

十夜
「……」

佐門
「再選出にあたり、様々なアイドルの
 情報を集めたと言っていましたが……」

「それなら尚更
 摩天ロケットを担ぎ上げる意図が
 わかりかねます」

光希
「ちょっ、佐門……! そんな言い方」

淳之介
「錦戸さん、手厳し〜……」

佐門
「例えばうちの場合……」

「この4月から、メンバーの五十嵐も出演する
 ベレー帽刑事の新シリーズが始まります」

「注目作の新キャストということで
 話題作りには最適。
 番宣でのテレビ出演も多く控えています」

「それから、リーダーの久瀬は
 日本遺産級イケメンランキング上位にも
 ノミネートされている、注目株」

「紺野や胡桃沢も、それぞれの得意分野で
 存在感を放っていますし……
 僕も、バラエティによく呼んでいただくので
 お茶の間の支持率には自信があります」

「ゴールドステージ昇格のチャンスとしては
 十分な要素が揃っていると思いますが」


「錦戸。そこまでにしよう」

佐門
「だが綺麗事だけでまかり通る世界じゃない。
 現実的に考えて
 不思議には思わないのか?」

千紘
「……ハッ。人様の手柄横取りしようってか。
 この腰高ゴリラでも、ンなことしねェよ。
 テメエは鉄面皮メガネかって」


「わあ、語彙力高いね、ちひろ」

雅楽
「黙れオマエら。
 火に油を注ぎ合ってどうする」


「え〜、だってなんだか
 空気が重たい灰色なんだもん」

プロデューサー
「ちょっと皆さん」

「あの……失礼しました」

ランクスター/伊吹
「いえ。でもまあ、そうですね。
 錦戸さんの疑問もわかります」

「ですが、再三申し上げたように
 これもきちんとデータを元に
 シミュレーションを行った結果なんです」

「皆さんもご存知の通り、ランキングの
 アルゴリズムや、投票者の個人情報などは
 非公開情報ですので、詳しいレポートを
 お見せすることはできませんが……」

「例えばOurTube FAN STAGEへの反響や
 これまでの彼らのSNS投稿における
 リアクション数やその継続率」

「加えて、ヴォーグ・レコードという
 レーベルがこれまで手掛けてきた
 同系統のアイドルの前例と実績を参照するに
 他のユニットと比較しても
 確度が高いと判断したんです」

佐門
「……」

ランクスター/伊吹
「それに、もし正式に
 オファーを受けていただけるなら
 ヴォーグさんも今以上に、彼らの施策に力を
 入れるとおっしゃっていました」

「厳しいことを言いますが、他の皆さんが
 所属するディア・レコードさんと違い
 ヴォーグさんは大手ですから
 できることの差は歴然かと」

「――ご納得いただけましたか?」



  ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






タクミ
「……ねえ、佐門。
 さっき、どうしてあんなこと言ったの?」

佐門
「? 何がだ」

タクミ
「運営の人たちに
 摩天ロケットのこと、わからないって」

佐門
「……ああ、それか。
 論理的に考えればそうだろう」

「俯瞰して見てみろ。
 どう考えても、俺たちやRayGlanZの方が
 ゴールドステージには近い」

「今決まっている仕事の内容だって
 特筆して摩天ロケットに
 分があるわけじゃない」

「摩天ロケットにオファーしたいと言うなら
 それ相応に筋の通った理由が
 聞きたかっただけだ」

タクミ
「……」

「4人が頑張ってきたことも、その結果も
 僕たちちゃんと見てきたよ?」

佐門
「……わかってる」

「だが……」




蒼志
「……」

小麦
「あ、藤原くん……!」

蒼志
「?」

「ああ。小麦さんに、凛久さん」

凛久
「ね、ねえ。さっきのオファー
 結局どうすることにしたわけ?」

蒼志
「ちょうど今から、プロデューサーさんと
 私たちで話し合いをするところなんだ」

凛久
「そっか」

「……ねえ、藤原」

「本当は、先越されるのなんて癪だけど……
 ゴールドステージ、入ってよ」

蒼志
「え?」

凛久
「言ってただろ。この間、事業部長が」

「1ユニットでもゴールドに上がれれば
 プロデューサー分業の件
 なかったことにしていいって」

「だから――……お願い」

蒼志
「!」

小麦
「ぼくからも、おねがい!」

蒼志
「ふたりとも……」





「オレは受けていいと思うぜ?」

「可能性感じてくれてんなら、応えたいしよ」

「それにやっぱ
 もしできなくても問題ねぇなんて言われたら
 意地でもやってやりたくなんだろ」

亜樹
「全の煽られ耐性の弱さね」


「そういうオマエらはどうなんだよ」

淳之介
「ん〜……。ぶっちゃけオレは
 ちょっと不安はあるんだよね」

「T.O.Pの時に木虎さんが
 ゴールドステージはそんなに易しくない
 って言ってたっしょ?」

「今のオレたちに
 挑める力はあるのかなーって」

「……でもその反面
 ちょっとチャレンジしてみたい感もあって」

「今のオレたちは、もう無知じゃない」

「選択する意志と
 善悪を考えられる価値観は
 ちゃんと教えてもらった。だから――」

亜樹
「いーんじゃない? 俺もさんせー」

「突拍子もない話で
 嘘でしょ!?みたいな気にもなるけど
 でも俺、信じてみたい」

「前は色々あったけどさ、今はちゃんと
 ヴォーグに味方だっているし!」

「なにより、ゴールドステージ上がれば
 ファンのみんなも喜んでくれるじゃん?」

淳之介
「だね」

「しかも、オレたちがゴールド上がれば
 プロデューサーさんだって……」

プロデューサー
「淳之介さん、それを理由にしては」

蒼志
「――そうだね」

「やってみようか」

全・亜樹
「蒼志……!」

蒼志
「他のユニットの皆さんも
 きっといろんな想いがある」

「でも、折角いただいたチャンスだから
 私たちがディアプロの代表として
 期待も不安も背負って
 前に進んでみよう」

全・淳之介・亜樹
「うん」

蒼志
「――プロデューサーさん」

プロデューサー
「わかりました。
 ではその方向で、話を進めます」






比呂
「なあなあ……! 聞いたぜ。
 オファー、受けることにしたんだって?」

「すげーよなあ、ホント。
 ゴールドフェスのオファーとかさ!
 オレ、夢のまた夢だと思ってた」

光希
「これからもっと忙しくなるだろうけど
 なんか困ったことあったら言えよ?
 相談くらい乗るから」


「心配ねぇって。
 包容力の塊のオレ様がいるかんな!
 なんでもギュッと包み込んでやんよ」

亜樹
「いでででで!
 なんでそこで俺をギュッとすんの!?」


「まっ、オレたち摩天ロケットがディアプロを
 引っ張ってってやっから、どーんと大船に
 乗った気持ちでいろってこった!」




弦心
「……」

安吾
「どうかしたのか、清水」

弦心
「あ、いや……。
 オファー、受けることにしたのかと」

安吾
「?」

弦心
「なんていうか……余計なものまで
 背負わなければいいなと思って」

「俺が言えた立場じゃないのはわかってるけど
 自分がうまくやれば、他のみんなの道を
 拓けるとか、そういうこと……
 考えすぎないようにしてほしいから」

安吾
「……」

「とはいえ、あいつらだって
 考えた上で選んだはずだ」

「その選択を周りが憂うのは
 少し違う気もする。
 信じてやろう」

弦心
「……ああ、そうだな」


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇






ヴォーグプロデューサー/我妻
「――まず、我々の方で
 ランキングアップに向けての
 施策ロードマップを作成してみましたので
 それについての話から進めましょう」

淳之介
「……なんか、いつもより
 大人の人の数多くない?」

亜樹
「それな」

「ねえねえ。あの人たちは?」

ヴォーグスタッフ/鴨井
「音楽事業部・エグゼクティブ
 プロデューサーの我妻さんだよ。
 向こうに座ってるのは、PR部の樋野さん」

「樋野さん、会ったことなかったっけ?」

蒼志
「私は、一度だけ」

亜樹
「ほえ〜。いつもみたいに
 鴨ちゃんとべーやんだけじゃないんだ」

ヴォーグスタッフ/鴨井
「今回は大きい案件だからね。
 僕らじゃなくて、上層部が主導になるんだ」

ヴォーグスタッフ/園辺
「ほら、みんなも資料。
 全くん、これ回して」


「おう」

  ◇◇◇◇◇

ヴォーグPR部/樋野
「施策の第一段階として
 まず手始めに、SNSの更新頻度を
 あげたいと思っています」

「動画のテーマによって
 年齢別に見たリーチ数に差があるので
 そのデータを元に、拡散する媒体を厳選」

「各媒体のインフルエンサーや
 バズを生み出すクリエイターへ依頼をかけ
 話題性を演出していきます」

ヴォーグスタッフ/鴨井・園辺
「!」

亜樹
「……え、それって
 ステマってことですよね?
 アリなんですか?」

ヴォーグPR部/樋野
「ステマじゃなくて
 インフルエンサーマーケティングだ」

「明確な期限と目標がある以上
 コントロールが容易で、且つ
 予測が立てられる施策を打つ必要がある」

蒼志・全・淳之介・亜樹
「……」

プロデューサー
「あの……すみません。こっちの
 チケットプレゼントというのは?」

ヴォーグプロデューサー/我妻
「ああ、それはですね」

「ちょうど直近で、藤原くんの舞台の
 チケット申し込みが開始するでしょう」

「他の出演者も豪華なので
 おそらく倍率は相当あがります」

「落選した人への救済措置として
 ランキングに投票してくれた人の中から
 チケットの再抽選を
 行えるようにしようかと」

蒼志・全・淳之介・亜樹
「……!」

プロデューサー
「それって、票の買収には
 あたらないんですか?」

ヴォーグプロデューサー/我妻
「あたりませんよ。
 再抽選権がもらえるだけで、当選者には
 きちんとチケット代は払っていただくので」

プロデューサー
「……」

ヴォーグプロデューサー/我妻
「まっ、なにはともあれ
 心配はいりませんから!」

「この施策案に則って動いていただければ
 ゴールドステージへの昇格は確実」

「だから君たちも頑張れよ!」




亜樹
「や〜、なんかすごかったねー、色々。
 施策の内容とか規模とか
 これまでと全然違う感じ」


「良くも悪くも現実味出てきたよな。
 いよいよゴールドステージなんだ、っつー」

蒼志
「……」

淳之介
「蒼ちゃん、心配?」

蒼志
「え? ああ、まあ……」

亜樹
「ダイジョブでしょ!
 鴨ちゃんたちもいるし」

蒼志
「うん、そうだね」


「とりあえずオレらも
 次の動画の案、考えようぜ!
 やる以上、納得できるもん出したいしよ」

淳之介
「蒼ちゃんはこのあと稽古だったよね?
 あとは任せてくれていいから!
 帰って来たら、共有するよ」

蒼志
「ありがとう。ごめんね」

プロデューサー
「……あ、蒼志さん!
 車、前につけてあるので
 先に乗っていてください」

蒼志
「はい」




???
「本当にいいんですか!?」

蒼志
「……?」

ヴォーグスタッフ/鴨井
「さっきの施策……
 一歩間違えれば炎上案件ですよ!?」

蒼志
「!」

ヴォーグスタッフ/園辺
「反感を集めて
 もし逆効果だったらどうするんですか」

ヴォーグプロデューサー/我妻
「だから、問題ないと言ってるだろ」

「言うとおりにやれば
 必ずゴールド入りできる」

「フェスの出場枠も、ゴールドステージの席も
 確実に手に入るんだ」

ヴォーグスタッフ/鴨井
「どうしてそんなこと言い切れるんですか」

「それに、そこまでして急ぐ理由なんて……」

ヴォーグスタッフ/園辺
「そうですよ!」

「たしかにあの子たちは頑張ってますし
 いつかはゴールドに行ける
 アイドルだとは思います」

「でも、こんなギリギリの施策まで
 しないといけないなら
 今じゃなかったんじゃ――」

ヴォーグスタッフ/鴨井
「! ……もしかして
 GALAXY TOKYOの活休に関係が?」

ヴォーグプロデューサー/我妻
「……しつこいぞお前たち」

「なんであれ、摩天ロケットは
 ゴールドステージに上がれるんだ」

「ディアプロの規模感からしても
 フットワーク軽く動いてくれるはず。
 予定が狂う可能性も低い」

「無事ゴールドに上がれれば
 摩天ロケットにもディアプロにも
 メリットしかないだろう」

ヴォーグスタッフ/鴨井
「それってもしかして、ディアプロの彼らなら
 扱いやすいと……そういう理由で
 摩天ロケットを選んだってことですか?」

ヴォーグプロデューサー/我妻
「……」

ヴォーグスタッフ/鴨井
「……っ、実績を
 評価したんじゃないんですか!?」

ヴォーグプロデューサー/我妻
「いいから黙って、仕事をしろ。
 これは会社の方針だ」

「指示は俺か樋野さんが出す。
 お前たちは余計なことは一切しなくていい」

「わかったら、さっさと乗れ。
 本社に戻るぞ」

バタン、ブロロロロ……

蒼志
「……」

「…………」

プロデューサー
「あれ、蒼志さん?」

蒼志
「!」

「……プロデューサー、さん」

プロデューサー
「どうかしましたか?
 車、乗っててよかったのに」

蒼志
「あ、いえ……」

プロデューサー
「……何かありました?」

「もしかして
 さっきの打ち合わせのこと……」

「だったら、心配しないでください。
 もう少し私からもお話して――」

蒼志
「いえ」

「なんでもないんです」

「今日から立ち稽古が始まるので
 少し緊張していて」

「行きましょうか」


...To Be Continued