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2023.02.17

Readyyy! 第一部完結編 The Gold ~19 moments~ 第3章(前編)




達真
「なんだお前ら、まだテレビ見てたのか」

「ほら、凛久。学校行く準備しろ。
 千紘たちも遅れるぞ」

凛久
「ちょっと! うるさいって。
 今いいとこなんだから」

TVのナレーション
『――続いては、シルバーステージ
 上位20位の発表です』

達真
「ああ。ランキング速報か」

TVのナレーション
『ゴールドステージの門を前に
 接戦を繰り広げるのは、この面々!』

比呂・達真・凛久・千紘
「!」

千紘
「摩天ロケット14位って……。
 アイツら、もうこんなに上がってんのかよ」

比呂
「すっげー!
 あっという間に抜かされたなー、オレら」

凛久
「そういう話だったんだから、当然だろ」

「これで全然上がってなかったら
 大手レコード会社の程度が知れるって」

達真
「平日なのに、今日も朝から
 ずっと仕事らしいし……
 あいつら、無理してないといいんだけどな」   






スタッフA
「はい、OKです!
 お疲れさまでした〜!」

佐門
「お疲れさまです。
 ありがとうございました」

「……ふう」


「あれれ、だいじょーぶ?
 お疲れモードだね」

佐門
「元凶のお前にだけは言われたくない」

「まったく……クイズ番組で
 とぼけまくるのも大概にしてくれ。
 回収するこっちの身にもなってみろ」

「だいたいJust 4Uで出ているときは
 もうちょっとまともに……」


「だってさもんがキレッキレだったからさ〜。
 どこまで付き合ってくれるのか
 試してみたくなっちゃって♪」

「それにそーしも
 楽しそうにしてくれたし」

蒼志
「……彗さん」


「最近いろいろ大変そうだから。ね?」

蒼志
「ふふっ、ありがとうございます」

スタッフA
「3人ともおつかれ。いや〜、よかったよ。
 特に錦戸くんのトークスキル」

「いつかMCの仕事とか来るんじゃない?
 あとラジオとかも向いてそうだし」

佐門
「ははっ、それは光栄です。
 次の番組改編期に向けて
 アピールでもしてみます」

スタッフB
「いや本当、いつチャンスが振ってくるか
 わかんないし、常日頃から
 アピールしておくに越したことはないよ」

「最近聞いた話だと
 あのMANAプロの子たちがやってたラジオ
 しばらく特番に切り替わるらしいし」

佐門
「え……このタイミングで、ですか?
 4月からも続投だったんじゃ」

スタッフA
「それは変わらないみたいだけど
 急遽決まったらしいよ。まあ、ただの
 イレギュラー対応だとは思うけどね」

「最近は、新規メンバー加入させて
 話題作りしたりって、事務所もだいぶ
 力入れてたっぽかったから……
 ちょっと気にはなるけど」

蒼志
「体調不良……などでしょうか?」

スタッフB
「いや、特に聞かないね。
 最近別現場で会ったけど、元気だったし。
 視聴数も人気も、悪くないはずなんだけど」

「……まっ、そういうこともあるってことだ。
 みんなも頑張って」

蒼志
「はい」

佐門
(……MANAプロか)

(あいつらまた、そんなことを……)




佐門
「――え?
 先日話していたプランが中止に?」

先輩アイドル
「……ああ。悪いな、錦戸。
 せっかくいい提案をもらったのに」

佐門
「何故ですか!?
 このままブーストをかけられれば
 ゴールドステージにも上がれると
 スタッフさんも乗り気だったんじゃ――」

先輩アイドル
「おれらにもわかんないんだ。
 事務所の方針だ、としか言われなくて」

「リリース日が被ってる
 他所のグループもちらほらいるし
 ……今回は他に先越されそうだな」




佐門
(MANAプロの手のひら返しは
 今に始まったことじゃない。とはいえ……)

「……」


「――えいっ、さもんのメガネも〜らい♪」

佐門
「なっ!? おい、柳川!」


「さもんがぼーっとしてるからだよ。
 1回かけてみたかったんだよね〜」

佐門
「オモチャじゃないんだ。
 見えないだろう! 返せ」


「まあまあ。ハッキリ見えてる世界だけが
 すべてじゃないし、たまには
 ココロの目で見るのも大事だよ♪」

佐門
「何がまあまあ、だ」

「心の目じゃカンペも
 カメラランプも見えん!」






プロデューサー
「すいません。皆さん疲れているのに
 こんな時間に呼び出して」

亜樹
「全然? なあに、話って」

プロデューサー
「はい。
 実はさっきヴォーグさんから
 期間限定ですが、ラジオの特別番組枠が
 とれたって連絡があって」

蒼志
「!」

淳之介
「えっ、ラジオ!? マジっスか!?
 もしかして、冠番組的な?」

プロデューサー
「はい……!」

全・亜樹
「おおおお!」

淳之介
「え……ヤバ……。
 長年の夢……」

「もしかしてこれは
 スーパー極上ミラクル敏腕MCへの
 超特急エスカレーター……!?」

亜樹
「早口言葉みたいになってんじゃん」

プロデューサー
「いつもその枠を担当している方々が
 どうしても都合がつかず
 数週間出演できないそうで、代わりにと」

蒼志
「……あの、ちなみにそれって
 どこの番組枠なのでしょう?」

プロデューサー
「ええと、毎週金曜日に
 MANAプロの方がやっている枠で――」

蒼志
「……え」




 十夜
「経済紙までこれか」

雅楽
「? ……ああ。
 ゴールドステージ関連のゴシップか」

十夜
「根も葉もないGALAXY TOKYO
 活動休止の理由の憶測にはじまり
 次期1位の予測まで……
 どこを見てもそればかり」

雅楽
「メディアは本当にモノ好きだな」

「けど、どうしてわざわざ経済紙にまで」

十夜
「それだけ市場の動向にも
 影響を及ぼしているということだ」

「ゴールドステージ1位には
 それほどまでの力がある」

雅楽
「オマエ……
 トップに固執する理由は
 もうないんじゃなかったのか?」

「家とのしがらみは断ち切ったんだろう」

十夜
「だとしても、目指すべき場所は変わらない」

「いちアイドルの活動休止に
 これだけの影響力があると証明されたのなら
 尚の事」

「スタート地点がどこであれ
 必ず望んだ目的地に辿り着けるという
 結果を、この手で体現してみせる」

雅楽
「まったく仰々しいヤツだな」

「……でもまあ、オマエの言うことも
 わからなくはない」

「今はまだ新鮮なニュースだから
 その活動休止の件も取り沙汰されているが
 そのうちすぐに別の話題にすり替わる」

「それでもきっと、GALAXY TOKYOは
 忘れ去られることのない存在のはずだ」

「オレも、オレの歌を
 La-Verittaの音楽を
 多くの人の記憶に刻んでやりたい」

「それができるのが
 ゴールドステージだというなら
 オレもゴールドステージを目指す」

十夜
「ふん」

「摩天ロケットに先を越されることへは
 なんの異議もないんだな」

雅楽
「それが真っ当な評価ならな」




舞台演出家
「――じゃあ15分休憩で」




共演俳優
「藤原。見たよ、このサイト。
 チケットの再抽選キャンペーン
 やってるんだって?」

蒼志
「ああ、はい。そうなんです。
 レコード会社が主導で」

共演俳優
「倍率高かったみたいだもんな〜。
 みんな飛びつくだろ」

蒼志
「……そうですね。
 これで少しでも多くの方が、チケットを
 とれるといいんですが」

共演俳優
「でも……
 ここまでしてランキングの票集めるって
 アイドルも大変なんだな」

「自分とこのファンに向けた救済措置と
 見せかけて、他界隈からの票も
 集めようってやつだろ?これ」

蒼志
「あ……いえ、その……」

共演俳優
「あー、悪ぃ悪ぃ。
 別に責めてるとかじゃなくてさ。
 アイドルは大変なのわかってるし」

「ただ、ちょっと疑問でさ」

「中身のない評価もらって
 それでなんか嬉しいのかな、って」

蒼志
「……」






蒼志
「――ただいま帰りました」

光希
「お。おかえり、蒼志」

「プロデューサーさんは?」

蒼志
「まだ本社に用事があるようで
 ここまで送ってくださったあと
 すぐに行ってしまいました」

光希
「そっか。
 プロデューサーさんも忙しそうだな」

「蒼志はどう?
 ユニットの仕事と舞台の稽古の両立
 大変そうだけど、大丈夫か?」

蒼志
「……はい」

「3人もそれぞれ頑張っているので
 私も負けてはいられませんから」

比呂
「なあ蒼志〜、先飯食う?」

「それとも風呂先?
 今ちょうど淳之介たち風呂にいるけど」

蒼志
「ありがとうございます、比呂さん。
 でも、まだどちらも大丈夫です」

「今から少し、走って来ようかと思っていたので」

光希
「えっ、これから!?
 朝からずっと仕事だったんじゃ」

蒼志
「舞台のために、もっと
 体力をつけておきたいんです」

「それに少し、頭を整理したくて」

比呂
「あっ、蒼志!?」

バタン

比呂
「行っちゃった」

光希
「……大丈夫、だよな」

比呂
「ん?」

光希
「ああ、いや……。
 昔、摩天ロケットが
 結成されたばっかりの時さ――……」




蒼志
「光希さんたちは名前の通り
 スピカみたいなユニットですよね」

「キラキラしていて、眩しくて……」

「私たちは、星にたとえると
 どんなユニットなんだろう」

光希
「……どうした?
 なんか元気ない?」

蒼志
「少し、悩んでいるんです」

「……私は、摩天ロケットのリーダーとして
 役目をちゃんと果たせているのか、と」




光希
「そうやってあいつ、相談してくれたから」

「何かあれば、ちゃんと周りを
 頼れるやつだし……」

「だから、大丈夫だよな?」




  タッタッタッ

蒼志
「……はぁっ、はぁっ」

――ただ、ちょっと疑問でさ。

中身のない評価もらって
それでなんか嬉しいのかな、って。

(中身のない評価、か……)

  タッタッタッ

蒼志
「はぁっ、はぁっ……」

(SNSで見かけた
ファンの人たちの声……)

 『まてロケ、もうちょっとで
  ゴールドじゃない!?
  ずっと応援してきたのが報われる〜〜。
  #摩天ロケットを応援し隊
  #イグニッション』

 『摩天ロケットとかいうアイドル
  なんで最近こんな推されてんの?
  事務所のスペオキ?』

 『まてロケ快進撃、めっちゃ嬉しい…………
  もっと世界に見つかってほしい……
  頼むからみんな応援して、てか投票して
  #摩天ロケットを応援し隊』

 『まてロケ、なんか必死じゃない?
  最近のプロモあんま好きじゃないんだけど』

蒼志
(賛否両論の様々な意見)

(亜樹たちのあの表情も……)




亜樹
「そういえば見たー?
 今朝のランキング」


「おー、マジで上がってたな。
 こないだの資料に書いてあった
 見込みどおりで、ビビったぜ」

亜樹
「……ゴールドステージ上がるときも
 こんな感じなのかな?」

淳之介
「どういうこと?」

亜樹
「ん〜? なんかこう……
 あんまり驚きとか喜びとかない感じ?」

「前はもっとさ、ゴールドステージに入るって
 めちゃくちゃなサプライズで快挙!って
 イメージだったじゃん?」

「思い描いてたヴィジョンとの
 ギャップすごー、と思って」


「でも、わかってて
 それを選んだのはオレたちだろ」

亜樹
「そだね」

「まあ、いろんな意見あるけど
 喜んでくれてるファンの人たちだって
 確実にいるわけだし」

「俺たちならできるって思われたから
 選んでもらえたわけだしね」




  タッタッタッ

蒼志
「はぁっ、はぁ」

(私が見たかった景色は
 これで正しいんだろうか)

(……でも、ここまで来ておいて
 後戻りはできない)

(みんなそれぞれ、それをわかっている)

(わかった上で、納得できるものを探して
 しがみついて頑張っている)

(だからこそ私は……)




ヴォーグプロデューサー/我妻
「ディアプロの規模感からしても
 フットワーク軽く動いてくれるはず。
 予定が狂う可能性も低い」

「無事ゴールドに上がれれば
 摩天ロケットにもディアプロにも
 メリットしかないだろう」

ヴォーグスタッフ/鴨井
「それってもしかして、ディアプロの彼らなら
 扱いやすいと……そういう理由で
 摩天ロケットを選んだってことですか?」

「……っ、実績を
 評価したんじゃないんですか!?」




蒼志
(中身のない評価――……)

(たとえ真実がどうであったとしても
 私がそれをリアルにしてはいけない)

(3人の笑顔を
 これ以上曇らせてはいけない)

  タッタッタッ

「はぁっ、はぁっ、はっ、はっ……」

(皆さんの期待を、裏切らないためにも)

  タッタッタッ


「……っ、はっ
 はっ、っ……はっ……っ、……」



???
「? ……蒼志?」


「オイ、蒼志……!」








ガチャン、バタンッ

千紘
「オイ、誰か! 手ェ貸せ!!」

佐門
「こんな時間に何を騒いで――」

「っ、藤原!? どうした!?」

蒼志
「……はぁっ、はっ……」




亜樹
「蒼志!? ねえ、大丈夫?」


「何やってんだよ、オマエ……。
 なんでそんな無茶して……」

蒼志
「げほっ、げほっ。……ふぅ」

淳之介
「……少しは落ち着いた?」

蒼志
「……うん。
 ごめんね、心配をかけてしまって」

「私はもう、大丈夫だから――」

千紘
「バカかテメエ。
 大丈夫なワケあっかよ」

蒼志・全・淳之介・亜樹
「!」

千紘
「オマエ、オレがたまたま見つけてなかったら
 どうなってたかわかってんのか」

蒼志
「……」

  バタバタバタっ

プロデューサー
「蒼志さん……! 大丈夫ですか!?」

蒼志
「プロデューサーさん」

プロデューサー
「話は聞きました」

「すいません! 無理をさせてしまって」

蒼志
「いえ、それは違います……!
 ランニングに出たのは、私の勝手な判断で」

プロデューサー
「……」

「なにはともあれ
 今日はもう休んでください」

「明日も1日オフにしてもらいます。
 3人も、ゆっくり休んでください」

蒼志
「ですが明日は、稽古も撮影も――」

プロデューサー
「いいから……!」

「大丈夫ですから。心配しないで」

蒼志
「……はい」




千紘
「アイツ、あのまま走ってたら
 過呼吸になってたぞ」

プロデューサー
「…………」

「助かりました、本当に」

千紘
「いや」

「にしても……
 なんか無理してんじゃねェの?
 体力的な話じゃねェだろ、アレ」

「プレッシャーとか、ストレスとか」

プロデューサー
「……」




光希
「――ごめんなさい!
 俺たち、蒼志が出てくとこ見てたのに」

比呂
「そんな風になると思ってなくて……」

プロデューサー
「大丈夫。おふたりが
 責任を感じることはありません」

「もう落ち着いているので
 おふたりも休んでください」

光希・比呂
「……はい」

プロデューサー
(何やってるんだろう)

(私が守らないといけないはずなのに
 これじゃあ……)






亜樹
「――え? オファー蹴んの!?」

プロデューサー
「……いえ。まだそうと決めたわけでは」

「でも、蒼志さんの健康には替えられません。
 もし負担が続くようなら
 この話はお断りしようと思っています」

「ちょうどこの後
 我妻さんと伊吹さんがいらっしゃるので
 その時にでも相談を――」

蒼志
「待ってください」

「ご迷惑をおかけして、すみませんでした。
 でも本当にもう、ご心配はいりません」

「昨日はたまたま
 自分の体力を過信しすぎただけなんです」

「一度引き受けたものを
 途中で投げ出すつもりはありません」

「それに、3人も頑張っています。
 それを無駄になんてしたくない」

淳之介
「蒼ちゃん……」

プロデューサー
「3人はどうですか?」

亜樹
「……蒼志が、そういうなら」




  バタン

プロデューサー
「……」

達真
「蒼志、大丈夫なんですか?」

プロデューサー
「本人はそう……」

佐門
「仕事もこのまま?」

プロデューサー
「少しペースを落としてもらえないか
 掛け合いますが
 途中で投げ出したくないと言っているので
 ここで無理にやめさせるのも……」

「この後、スタッフさんたちと
 打ち合わせがあるので、相談しつつ
 蒼志さんには、数日ゆっくり
 休んでいただくつもりです」

「明日以降の4人揃っての仕事も
 ひとまずラジオの収録ぐらいなので
 スケジュールの調整もつきそうですし……」

佐門
「? ……ラジオ?」

プロデューサー
「え? ああ、そうなんです。実は……」






佐門
(偶然か……?
 たまたま耳にしたMANAプロの一件が
 こんなところに繋がってくるなんて)

(いや、偶然にしては……)





佐門
「……は?
 音楽番組の出演がなしに……?」

先輩アイドル
「ああ」

佐門
「プロモ期間じゃないんですか!?
 何故――」

先輩アイドル
「おれが聞きたいよ……」

「……こないだまでとは大違いだ」

「事務所はもうおれたちを
 ゴールドに上げる気なんてないんだろうな」

「おれたちなんかしたか?
 ……このまま、干されんのかな」

佐門
「――っ」




不可解な理由。汲めない意図。理不尽な処遇。

そんな見えない何かに
可能性を潰される現場を
俺は過去に何度も見てきた。

この時だってそうだ。

新曲のリリースを前にして
先輩たちのユニットは
プロモーション期間のはずだった。

手を伸ばせば、もうすぐで届く
ゴールドステージ。

なのに。

積み上げて積み上げて
もうあと一息だというところで
突然はしごを外された。

蓋をあけてみれば、持ち上げられていたのは
他所の事務所のアイドル。

当然か、ゴールドステージ入りの切符を
掴んだのは、そのユニットだった。

ランキングの速報を見ても、驚きはしない。
何かに定められていたような。
誘導されていたような。

「まあ、そうだろうな」

それが一番に脳裏に浮かんだ言葉だった。




佐門
「どうしてですか!? おかしいでしょう!?
 プロモ期間に急に手を抜いて……」

「何故チャンスを
 譲るようなことをしたんですか」

事務所スタッフ
「だから言っただろう、会社の判断だと。
 方針には従え」

「お前なら理解できるだろう」

「――これはビジネスなんだ」

そうして、理不尽に気持ちを費やされ
他人には言えない何かを抱えて
押しつぶされそうになりながら
事務所を辞めていく先輩や同期を
どれほど見送ったか。




佐門
(……あの時とは、立場は逆)

(だが、ぼんやりと感じた作為的な何か。
 あれが勘違いじゃなければ――)




佐門
(……ずっと追いかけてきたんだ)

(その正体を、今ここで暴いてやる)




ランクスター/伊吹
「それで、スケジュール変更に伴う影響は?」

ヴォーグプロデューサー/我妻
「藤原くんの体調次第なので
 まだなんとも言えませんが……
 でも、なんとか最小限に抑えます」

佐門
「――ああ、お疲れさまです」

伊吹・我妻
「!」

ヴォーグプロデューサー/我妻
「……錦戸くんか」

佐門
「藤原の件ですが」

「数日休養すると聞きました。
 スケジュールにも大きく影響しそうですね。
 今後のプランにも響くのでは?」

「随分と確証があったようですし……
 こんなイレギュラーが起こっては
 さぞ調整も大変だろうとお察しします」

ヴォーグプロデューサー/我妻
「……問題ない。
 第一、君には関係ないだろう」

佐門
「関係なくありませんよ。
 ユニットは違えど
 藤原はうちの事務所の人間です」

「それに僕はご提案しましたよね?」

「僕たちSP!CAやRayGlanZの方が
 確実性があると」

「結果として、その提案が
 正しかったことになる。読みが甘かったと
 後悔されているかと思いまして」

ヴォーグプロデューサー/我妻
「何を言って」

「そもそも、我々はヴォーグの人間だ。
 たとえ提案されたとしても
 ディア・レコードさんを動かす力はない」

佐門
「ええ、わかっています」

「僕が言っているのは、貴方がたにではなく
 ランクスターさんにです」

ランクスター/伊吹
「……」

「まだその話をされるんですか」

「あの時、ご納得いただけたと
 思っていたのですが」

佐門
「残念ながら
 あまり聞き分けは良くなくてね」

「それで?
 これからどんな手を使うんです?」

「それともあっさり切り捨てますか」

ヴォーグプロデューサー/我妻
「人聞きの悪い言い方をするな」

「どんな手も何も、今のプランのままで
 大きな支障はない」

「このあと、ラジオだって控えてるんだ」

佐門
「……アイドルのラジオを聞くのは
 既存のファンが中心では?」

「それでランキングが上がるんですか?」

ヴォーグプロデューサー/我妻
「心配ない。番組枠を考えてみろ。
 元々ラジオリスナーからの評判も高く
 枠そのものにファンがついている番組だ」

「既存のファン以外も十分に見込める」

「それにここのリスナーは
 あらゆるエンタメへの感度も高い」

「リスナー且つ、ランキングサイトの登録者は
 舞台関連のチケットの購買にも意欲的だと
 データで実証済み」

ランクスター/伊吹
「……我妻さん」

ヴォーグプロデューサー/我妻
「別で打っている、舞台チケットの
 再抽選キャンペーンとあわせれば……」

ランクスター/伊吹
「我妻さ――」

佐門
「……へえ」

「データで実証済み、ね」

ヴォーグプロデューサー/我妻
「!」

佐門
「……やはりそういうことでしたか」

「そのデータは一体
 どこから入手したんです?」

「本来、ランキングの運営以外は
 知り得ないもののはずでは?」

「以前伊吹さんも仰っていましたよね?」

「ランキングのアルゴリズムや
 投票者の個人情報などは非公開情報だと」

ヴォーグプロデューサー/我妻
「……っ」

「君は、何を……」

佐門
「もっと疑うべきでした」

「おかしいとは思ったんだ。
 中立であるはずの運営会社が
 自ら動きオファーを出すなんて」

「……はじめから癒着だったという
 ことでしょう」

「ラジオ枠は金で買ったか?
 それともMANAプロに
 圧力でもかけたか?」

「競合のヴォーグさんには無理でも
 ランクスターさんになら可能でしょうね」

ヴォーグプロデューサー/我妻
「口を慎みなさい!
 そんなことあるわけ――」

佐門
「じゃあ今の話は
 どう説明するつもりなんです」

「どうしてランキングの運営しか
 知り得ないデータを、貴方がたが
 さも当然のように握っているんですか」

ヴォーグプロデューサー/我妻
「……っ」

ランクスター/伊吹
「困りましたね、錦戸さん。
 そんな風に難癖をつけられては」

「私たちはただ
 協力関係にあるだけですよ」

佐門
「……協力?」

ランクスター/伊吹
「あなたももう子どもじゃないんです。
 わかるでしょう?」

「アイドル産業は
 今やただのエンタメに留まりません」

「国内外の経済、ひいては政界に
 影響を与えることも少なくない」

「そんな大きな影響力を持つ業界で
 各事務所や勢力が
 好き勝手動くとどうなるか……」

「このアイドル戦国時代において
 適切な秩序をもって業界を回していくには
 統制は必要不可欠なんです」

佐門
「……統制、だと」

ランクスター/伊吹
「ええ。そのために我々は
 協力関係にあるに過ぎません」

「あくまですべて――」

「ビジネスなんですから」

佐門
「……っ」

「……そのためなら
 不当な手を使って事実を捻じ曲げたり
 積み上げてきた可能性を容易く潰せると!?」

「何がビジネスだ」

「そのビジネスのために
 どれだけの数の覚悟と努力が
 踏みにじられたと思ってる」

「”秩序”のために搾取するだけのつもりなら
 今すぐあいつらから手を引け」

ランクスター/伊吹
「……いいんですか?」

「そんな理由で、彼らのこれまで頑張りを
 無下にするようなことを言って」

佐門
「いつか、いいように使われたことに気づいて
 傷つき去って行く背中を見送るよりマシだ」

ランクスター/伊吹
「……そうですか。わかりました」

「こうも好き放題言われては
 こちらも看過できませんし……」

「摩天ロケットのフェス出場の話は
 なかったことにしましょうか」

ヴォーグプロデューサー/我妻
「ちょっ、待ってください!
 それは……!」

ランクスター/伊吹
「だって、そうでしょう。
 これは信用問題に関わります」

「御社のプロデューサーさんへは
 私の方から伝えておきます」

「フェスの話は白紙に戻す、と」

「それでご満足ですか?」

佐門
「ああ――……」

淳之介
「……え……今、なんて」

佐門
「!」


...To Be Continued