Readyyy!

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2023.02.24

Readyyy! 第一部完結編 The Gold ~19 moments~ 第3章(後編)

ランクスター/伊吹
「御社のプロデューサーさんへは
 私の方から伝えておきます」

「フェスの話は白紙に戻す、と」

「それでご満足ですか?」

佐門
「ああ――……」

淳之介
「……え……今、なんて」

佐門
「!」

達真
「どういうことだ……?」

佐門
「真田……明石……」

ランクスター/伊吹
「ああ、真田くん。
 聞いていたのなら、話が早い」

「大変残念ですが、そういうことです」

「同じ事務所内にこうも非協力的な方が
 居られたのでは、こちらとしても
 いいお仕事はできそうにありませんので」

佐門
「……っ」

淳之介
「……え、ちょっ……何スか……え?」

達真
「非協力的って……。
 佐門、お前……何したんだ!?」

佐門
「……」

達真
「佐門……!」

プロデューサー
「……皆さん、何事ですか!?」

淳之介
「プロデューサーさん……。
 あの、それが――」





  バタンっ

光希
「梓……! どうなった!?」


「今、プロデューサーさんが
 スタッフのおふたりと話しているよ」

「摩天ロケットの今後についても
 協議するって」

淳之介
「……」

小麦
「協議って、どうしてですか!?
 だって、摩天ロケットのみんなは
 なんにも……」

雅楽
「同じ事務所のヤツが問題を起こしたんだ。
 連帯責任を問われでもしてるんだろう」

小麦
「でも……
 頑張ってたじゃないですか!
 なのに、そんな……」

全・淳之介・亜樹
「……」

達真
「佐門、いい加減何があったか教えてくれ」

「お前と話をしてたんだよな?」

佐門
「……ああ」

達真
「何の話なんだ」

「非協力的ってなんだよ」

「頑張ってくれてるこいつらの足……
 引っ張ったんじゃないよな……!?」

佐門
「……」


「……錦戸。
 説明してくれないとわからないよ?」

「錦戸のことだから、理由もなく
 行動したりはしないと思うけど」

「でも、黙っていたんじゃわからない」

佐門
「……お前たちの前でも
 質問しただろう」

「摩天ロケットが選ばれた理由がわからない。
 それだけだ」

亜樹
「……」


「佐門、オマエ……っ!!」

淳之介
「……そりゃないっスよ。
 酷くないっスか!?」

「なんで……オレたち頑張ってるのに。
 蒼ちゃんだって、あんなに……」

比呂
「っ、だよな……! ごめん!」

「ごめんな? 佐門が。
 代わりに謝るから! 許してやってくれよ。
 きっとなんか理由があって……!」

光希
「……比呂」

佐門
「お前が代わりに謝る必要はない。
 関係ないだろう」

光希・比呂・梓・タクミ
「!」

比呂
「関係なくねぇよ……!
 だって、メンバーなんだし」

佐門
「全部俺が勝手にしたことだ。
 責任は俺にある」


「錦戸、どこに行くつもり?」

佐門
「プロデューサーさんと話をしてくる」

「大丈夫だ。
 お前たちにまで矛先は向かないようにする」

光希
「どういう意味だよ、それ!」

千紘
「……どっかで見た展開と
 そっくりだな、オイ」

安吾
「錦戸さん、あなた何を……」

十夜
「――」

佐門
「! なんだ、香坂。
 腕を引っ張――……宗像?」

十夜
「――いつだったか。
 くだらないプライドを捨てて
 体を張る覚悟を持て、と
 説教をしてきたことがあったな」

佐門
「それがなんだ、こんな時に」

十夜
「そこには、他を蹴落としてまでのし上がる
 ことも含まれていたか?」

「少なくとも、これまで見てきたお前は
 そのプライドを捨てたことなど
 一度もないはずだ」

佐門
「……」

十夜
「そんなに泥を被りたいなら、止めはしない。
 ……が、そのあとはどうするつもりだ」


「ねえ、錦戸。
 ここでは言えないことだって解釈していい?
 それは、全たちがいるから?」

佐門
「…………」

「……」

「……あいつらはあの4人を
 俺たちアイドルを侮辱した」

梓・十夜・千紘・安吾
「!」

ガチャッ、バタン

安吾
「錦戸さん!」


「侮辱って、一体……」

千紘
「!」

ガチャッ

安吾
「碓井!? お前までどこへ――」




千紘
(そういうことかよ……アイツ……)

バタバタっ

ドンドンドンっ

千紘
「おい、蒼志! いんなら、ドア開けろ」




蒼志
「千紘さん? どうされました?」

千紘
「あれ以来発作は?」

蒼志
「い、いえ。もうよくなりましたが……」

千紘
「んじゃあ聞かせろ。
 オマエ、ひとりで何隠してた」

「体調崩すほど、ストレス抱えてたんだろ。
 バレてねェとでも思ったか」

蒼志
「……え?」

千紘
「佐門が運営の連中に楯突いた」

蒼志
「!」

千紘
「あのメガネ……
 連中がオマエらのこと侮辱したって
 言ってやがった」

「オマエ、なんか思い当たること
 あんじゃねェのか」

蒼志
「どうして、私に……」

千紘
「隠せると思ってんのかよ。
 あんなとこ目の前で見せやがって」

「大層な理由でもなきゃ
 あんな風にはなんねェんだっつの」

蒼志
「……」

千紘
「何気にしてんだか知んねェけど
 黙ってたってなんも
 いいことねェってわかれや」

「ひとりで背伸びしてんな」

「テメエにとってあの3人は
 背負った荷物も分けらんねェ程
 頼りねェヤツらなんかよ」

「佐門のヤツもきっと、自分だけ悪者にでも
 なるつもりなんだろうよ」

蒼志
「……!」

千紘
「テメエが大人ぶってっからだ」

蒼志
「千紘さん。私……」

「すみません」

ガチャッ、タタッ

千紘
「……」




タタタッ

蒼志
(佐門さん、どうして……)

(私が何も言わなければ
 それでうまくいくと思っていたのに)

(なのに、どうして……)




タタタッ

佐門
「……藤原?」

蒼志
「! 佐門さん」

佐門
「お前――……」

蒼志
「お話、伺いました」

佐門
「!」

「悪かったな、お前たちの努力を無駄に……」

蒼志
「違うんです!」

「私は、これでいいと思っていたのに……
 こうすることが最善だと思っていたのに」

「なのに、佐門さんのおかげで
 気持ちが軽くなった私がいます」

佐門
「……」

蒼志
「だから……」

「ありがとうございます」

「『逃げる』という選択肢を
 作ってくださって」






「だーーー! やっぱオレも行ってくる!!」

亜樹
「行ってどーすんの!?」


「続けさせてほしいって頼むんだよ!」

「佐門が何言ったか知らねぇけど
 蒼志の耳に入る前に――」

ガチャッ

蒼志
「全、待って」

一同
「!」


「蒼志……」

蒼志
「千紘さんから、何があったかは聞いたよ」

全・淳之介・亜樹
「!」

亜樹
「蒼志、大丈夫だから!
 心配しなくていいから!
 きっとなんとかなるからさ」

蒼志
「……ごめん。これでいいんだ」

全・淳之介・亜樹
「え?」

蒼志
「本当は、私が声をあげなくては
 いけなかった」

「でも、できなくて……」

「佐門さんは、そんな私の代わりに
 声をあげてくれた」

「重たくて、潰されそうな荷物を
 取り除いてくれた」

淳之介
「蒼ちゃん、何の話……?」

蒼志
「……3人を傷つけること、先に謝るね」

「でも、聞いてほしい」

全・淳之介・亜樹
「……」

蒼志
「聞いてしまったんだ。
 あの日、偶然――……」





ヴォーグプロデューサー/我妻
「ディアプロの規模感からしても
 フットワーク軽く動いてくれるはず。
 予定が狂う可能性も低い」

「無事ゴールドに上がれれば
 摩天ロケットにもディアプロにも
 メリットしかないだろう」

ヴォーグスタッフ/鴨井
「それってもしかして、ディアプロの彼らなら
 扱いやすいと……そういう理由で
 摩天ロケットを選んだってことですか?」

「……っ、実績を
 評価したんじゃないんですか!?」





全・淳之介・亜樹
「……え」

蒼志
「今回のお話を受けるにあたって
 覚悟したつもりだった」

「淳之介も言っていたように
 周りが見えなくなることはないとも
 思っていたんだ」

「でも、見え過ぎてしまったものを
 見ないふりすることは
 簡単ではなくて……」

「中身のない評価の中で
 それでも自分を納得させながら
 前向きに頑張る3人を見ていたら
 何のためにアイドルでいるのか
 わからなくなりそうだった」

「道を見失いそうで、怖くて……」

光希
「じゃあ、佐門はそれを知って……?」

淳之介
「蒼ちゃん……
 ずっとひとりでそれ抱えてたってこと!?」

「なんでもっと早く言ってくれなかったの!?」

蒼志
「ごめんね」

「3人に傷ついてほしくなかったんだ」

「そんなこと、知ってほしくなかった。
 笑っていてほしかった」

「いつもみたいに仕事に前向きで
 楽しそうにしている
 3人でいてほしかった」

全・淳之介・亜樹
「……」

蒼志
「皆さんの期待も、裏切りたくなかった」

「そんな力なんてないのに
 私がうまくやれればと、思い込んで
 自分で逃げ道を絶って……」

弦心
「藤原……」

「すまない、やっぱりもう少し
 気にかけてやれれば……」

安吾
「清水だけが悔やむことじゃない」

「藤原を追い込んだのは、俺たち全員だ」

一同
「……」

凛久
「俺、俺も……余計なこと言った」

「摩天ロケットが
 ゴールドステージ入ってくれれば
 プロデューサーのこと
 心配いらなくなると思って……それで……」

「ごめん」


「……」

「なあ、蒼志。
 オマエ、どうしたいか言えよ」

「ガマンしないで、辛いなら辛いって言え。
 イヤならイヤって言え」

蒼志
「……」

「私は……」

「4人で、心から笑って仕事がしたい」

「皆さんにも、ファンの人たちにも
 そして自分たちにも正直に
 胸を張れる摩天ロケットでいたい」

「嘘で固めたステージでは
 うまく笑えないから」

「自分の気持ちに目を背けることは
 もうしたくない」

達真
「……」


「タツマン?」

達真
「――行ってくる。
 プロデューサーさんと佐門のとこ」

亜樹
「え?」

達真
「そんな話聞かされて
 放っておけないだろ」

「それに、佐門を疑ったことも謝りたい」

「あいつが4人のために
 ひとりで運営相手に戦おうとしてるなら
 俺も一緒に戦う」


「なんでオマエが……!
 それはオレらが!」

蒼志
「そうです! ケジメは自分たちで」

達真
「お前らはもう十分戦ってくれただろ。
 俺たち全員の気持ちとか
 いろんなもの背負って」

「だからその分、今度は俺たちにも
 背負わせてくれ」

蒼志
「達真さん……」

凛久
「どうすんだよ」

「運営相手に楯突いて、もしランキングから
 干されるようなことにでもなったら」

達真
「あ〜……ははっ、すまん。
 それは考えてなかった」

凛久
「本当、脳直。
 毎度毎度、頭より先に身体ばっかり……」

「……でも、今回だけはいい。
 明石の気持ち、俺にもわかるから」


「じゃあボクも」

「リーダーが戦うなら、その右腕も
 一緒に行かないと、格好つかないもんね」

達真
「彗。なんだよ右腕って」

光希
「達真さん! 俺も行きます。
 佐門だけ、ひとりになんて――」


「光希。俺が行くよ」

光希
「え?」


「この後は、俺たちの出番だから」

十夜・雅楽
「――」


「よ〜し、カチコミだ〜!
 あ、それとも一揆だっけ?
 ルビコン川を渡っちゃう?」

「……なーんて。
 なんかこういうの懐かしいね。
 タツマン」

達真
「遊びじゃないぞ?」


「わかってるってば」

「ボクたちだってもう、大人だからね」

「大人になろうとがんばってくれた
 みんなのために、ひと肌もふた肌も脱ぐ
 覚悟は、ちゃ〜んとあるよ」




プロデューサー
「――本当にすみませんでした」

「でも、摩天ロケットの4人は
 真っ直ぐに向き合って来たんです」

「ですからどうか、引き続き
 ご検討いただけないでしょうか?」

ランクスター/伊吹
「……そう言われましてもね」

ヴォーグプロデューサー/我妻
「か、考え直しませんか?」

「同じ事務所と言えど
 彼と摩天ロケットは、別のユニットです」

「せっかくここまで
 色々と準備してきたんですし……」

プロデューサー
「どうか、お願いします!
 彼らの努力を無駄には――」

ガチャッ

佐門
「プロデューサーさん。
 頭を上げてください」

我妻・伊吹
「!」

プロデューサー
「佐門さん……!?」

佐門
「勝手な行動をして
 迷惑をかけたことは謝ります」

「でも俺は、撤回する気も
 謝罪する気もありません」

プロデューサー
「どうして……」

佐門
「――世の中のアイドルを
 ビジネスの道具としか
 思っていないような奴らです」

「こいつらはあの4人の気持ちも覚悟も
 なんとも思っちゃいない」

プロデューサー
「……え」

佐門
「ヴォーグとランクスターは
 はじめから癒着の関係にあったんですよ」

「……いや、おそらくヴォーグだけじゃない」

「多くの芸能事務所ないしレコード会社が
 同様でしょう」

「ヴォーグは、空いたGALAXY TOKYOの
 枠を変わらず自分たちのものにするため
 動かしやすい摩天ロケットに目をつけた」

「ランキングの運営も、秩序とやらを守るには
 それが一番都合がよかった」

「だから手を結び
 運営しか知り得ない情報をヴォーグに流し
 ランクアップの手助けをしていた」

ヴォーグプロデューサー/我妻
「また君は好き勝手な――」

佐門
「自分たちの預かり知らぬところで
 策略のための駒にされたと気づいた奴の
 気持ちがわかりますか」

「それで心をすり減らしていたのが
 藤原なんだ!」

プロデューサー
「……!」

ヴォーグプロデューサー/我妻
「出任せを言うな!」

「だいたい、その話のどこに
 信憑性があるっていうんだ」

「たったひとりの言葉を誰が信じ――」


「ひとりではありません」

佐門
「! 紺野……に、お前たち……」

達真・彗・十夜・雅楽
「――」

プロデューサー
「皆さん……」

雅楽
「蒼志からも話は聞いた。
 佐門が言うことはデタラメじゃない」

十夜
「運営が裏で糸を引いている、確たる証拠は
 ないにしろ……俺たちは以前一度
 似たようなことを経験している」

「錦戸の言葉を疑う余地はない」

佐門
「お前たち……」

達真
「――プロデューサーさん」

「佐門の言うこと
 信じてやってくれませんか」

「そして蒼志を……あいつら4人のこと
 掬い上げてやってください」

プロデューサー
「!」

――彼らを守れるのは”大人”じゃない。

他の誰でもない、キミだよ。

プロデューサー
「……」

達真
「今更なかったことにしろなんて
 いろんな所に迷惑かけるのかもしれないけど」

「でも、お願いします……!」

「もうあんな苦しそうな顔
 あいつらにさせたくないんです」


「Pちゃん、ボクからも。
 お願いします」

ヴォーグプロデューサー/我妻
「……揃って頭なんて下げて」

佐門
「馬鹿かお前たち……!」

「そんなことを言ったら、お前たちまで
 干される可能性があるんだぞ!?」


「馬鹿は錦戸だよ」

「俺たちのことを気にして
 ひとりで動いていたのかもしれないけど
 そんなの誰も喜ばない」

雅楽
「まったくだ。余計な世話も甚だしい」

「オレたちだって、不当な評価を
 下されるかもしれないシステムの中で
 無様に生き残りたいとは思わない」

十夜
「全くの同意だな」

ヴォーグプロデューサー/我妻
「あのなあ……」

「いいですか、プロデューサーさん」

「あなたの仕事は
 アイドルを売り出すことでしょう」

「なのにこんな根拠のない話を信じて
 千載一遇のチャンスを手放すつもりですか」

達真
「プロデューサーさん……!」

プロデューサー
「……わかっています」

「わかってますよ。信じます。
 当たり前じゃないですか」

「皆さんの言葉を
 疑うつもりは一切ありません」

ヴォーグプロデューサー/我妻
「……!」

「あなた自分が何を言っているか
 わかってるんですか!」

「彼らの言うことを鵜呑みにするということは
 ランクスターさんに
 楯突いたようなものですよ!?」

「それが何を意味するのか――」

プロデューサー
「すみません、我妻さん」

「ご迷惑をおかけすることはわかっています。
 ですがこの話はもういいです。
 白紙に戻しましょう」

「彼らは……」

「うちの大切なアイドルたちは
 ビジネスの道具じゃありませんから」

達真
「……プロデューサーさん」

雅楽
「ふんっ」

梓・彗・十夜
「……」

ランクスター/伊吹
「――話はまとまりましたか?」

「うちとしては元より
 白紙に戻すことに異論はありません」

「御社とはもう関わる機会もないと
 思いますが……」

「今後のご活躍を応援しています。
 いつかゴールドステージで
 会えるといいですね」

雅楽
「……白々しい」

ランクスター/伊吹
「行きましょう、我妻さん」

「少し話があります」

ヴォーグプロデューサー/我妻
「……っ、わかりました」

バタンッ

プロデューサー
「…………」


「すみません、プロデューサーさん。
 勝手なことをして」

プロデューサー
「いえ」

「こちらこそ、すみませんでした。
 皆さんにこんなことをさせてしまって」

「それに、摩天ロケットの4人には
 どう謝ればいいか」

「私が、もっと早くに
 気づいてあげられていたら」


「Pちゃんだけのせいじゃないよ」

「それに、知らない道を旅してれば
 誰でも1回くらいは道に迷うでしょ?」

「迷ったって、戻って来れたんだから
 それでいいと思うけどな」

プロデューサー
「……彗さん」

雅楽
「なにはともあれ、運営に喧嘩を売ったんだ。
 もう後戻りはできない」

「オマエの立場は大丈夫なのか?
 社長になんて言うつもりだ」

十夜
「そこは問題ないだろう」

「今の業界の仕組みをよく思っていないのが
 社長の息子だというなら、社長だって
 この話を咎めるようなことはしないはずだ」

達真
「そういえば、業界に革命をもたらすことを
 願ってるって、前に……」

佐門
「まあ、革命は愚か
 どう転んでも現状は賊軍でしかないけどな」

???
「――そうでもないで」

一同
「!」







プロデューサー
「長谷井さん」

秋霜
「なんやみんなして、険しい顔して」

「賊軍にはさせへんから安心しとき」

佐門・十夜
「?」

秋霜
「一丁ぶちかましたれ〜って
 発破かけるだけかけて、あとはフォローも
 なしなんて、んなわけないやろ」

「あとのことは心配いらんから
 お前らは今までどおり頑張れ」

プロデューサー
「心配いらないって……」

秋霜
「よく考えてみ?
 ランキングに加入してても
 これまでうちは一度も運営の直接的な
 干渉を受けたことないやろ」

「すべてのプロダクションと癒着してんなら
 ランキングに加入した時点で
 何かコンタクトがあってもおかしくない」

「でもそれはなかった」

「それに、たまーにニュースで見るやろ。
 ランキングの不正の話」

「そういうのを踏まえて考えれば
 ランキング全体が、運営の思い通りに
 動いてるわけやないっちゅーことはわかる」

十夜
「例えそうであろうと
 今後も干渉を受けない保証は
 万にひとつもないだろう」

秋霜
「あんねんて、それが。
 おっちゃんのとっておきの秘策や」

一同
「?」

秋霜
「せやから心配は御無用」

「お前らが生き残って勝ち上がる道はある」

「心配する暇あんなら
 あいつらの鼻明かす方法でも考えとき」

一同
「――」

秋霜
「さー、ほらほら。早く戻った戻った。
 みんな待ってんで」

達真
「あ、そうだった……!」

バタバタっ

佐門
「……長谷井さん。
 その秘策というのを、お聞きしても?」

秋霜
「ええから、ええから。早よ行けって」

佐門
「ですが」

秋霜
「お前のこともちゃ〜んと守ってやるから
 余計な心配ばっかせんでええって」

佐門
「!」

「――はい」


◇◇◇◇◇


秋霜
「さ〜て、言うてもプロデューサーには
 ちゃんと話しとかなあかんな」

プロデューサー
「……」

秋霜
「今朝、運営の人が本社に来てな」

「今回の件を進めるにあたって
 ひとつ交換条件を出してきた」

プロデューサー
「交換条件……? 今更ですか?」

秋霜
「そ。まあ早い話が
 今後もランクスターとの協力関係を結ぶ
 っちゅー話なんやけど」

プロデューサー
「それって……」

秋霜
「ああ。運営のやってることは
 文字通りランキングの統制や」

「でも、そのすべてを管理して
 動かせるわけやない」

「動かせるのは、ある一定の範囲。
 協力関係にある事務所やレコード会社の
 周りだけ」

「手を結んだレコード会社ないし事務所は
 運営会社の所持するデータやノウハウを
 流してもらう代わりに
 運営会社の指示があれば、その通りに動く」

プロデューサー
「じゃあ、やっぱりヴォーグさんも……」

秋霜
「まあヴォーグだけやなくて
 大手はどこもそうかもしれんけどな」

プロデューサー
「……」

「それを今頃言って来たのは
 既成事実を作って
 逃げられないようにするためですか?」

秋霜
「たぶんな。
 でも今回ばかりは、それが裏目に出た」

プロデューサー
「?」

秋霜
「誰もこのタイミングで楯突いてくるとは
 思ってへんかったんやろな〜」

「証拠はバッチリや」

プロデューサー
「それ……ボイスレコーダー!?
 秘策って、まさか」

秋霜
「やー、なんでも準備しとくもんやな〜」

「さっき、ここ出てこうとしてた伊吹さんに
 ちゃんと”挨拶”もしといたで」

プロデューサー
「……」

秋霜
「いやあ、ホンマええ仕事したわ〜。
 褒めてくれてもええねんで〜?」

プロデューサー
「は、はあ」

秋霜
「まあ、そういうわけやし
 とりあえず裏から手を回されることはない」

「せやからプロデューサーも
 余計な心配せんと、自分の仕事を頼んだで」

プロデューサー
「……わかりました」

「あの、ひとつだけいいですか?」

秋霜
「ん?」

プロデューサー
「どうしてこんなことを知って?」

「その……
 長谷井さんって、一体――」

秋霜
「はははっ。ただのよろず屋や」







プロデューサー
「――皆さん、本当にすみませんでした」

「私が不甲斐ないばかりに……」

蒼志
「そんなこと……!
 隠していたのは、私です」

「浅はかだったと、後悔しています」

プロデューサー
「……それでも」

亜樹
「俺も……」

「俺も、本当は色々モヤモヤすることあって。
 でも大丈夫って言い出した手前
 引けないし……」

「何より、舞台もあって俺たちより忙しい
 蒼志が大丈夫って言うなら
 弱音なんて吐けないって思っちゃって」

「結果、蒼志にいっぱい背負わせてた。
 ……ごめん」

蒼志
「亜樹……」

淳之介
「な〜んか結局オレらって
 昔からいっつもそうだね」

「お互いのためにと思って
 それが裏目に出たり」


「それはオマエらだろ」

淳之介
「全ちゃんも大概っしょ。オレらの前で
 弱音なんて吐かないクセに」


「……」

淳之介
「でもさ、ホント……」

「蒼ちゃんが想ってくれてるように
 オレたちだって蒼ちゃんに笑ってて
 ほしいんだから」

「もう、こういうのはナシね?」

蒼志
「うん。ごめんね」


「約束だかんな、蒼志」

蒼志
「うん、約束する」


◇◇◇◇◇


光希
「佐門、梓……!」


「ただいま」

「ほら、錦戸。みんなに言うことは?」

佐門
「……」

「……勝手なことをして悪かった」

比呂
「ったく、ホントだよなー!
 何が関係ねぇだよ!
 オレめっちゃ傷ついたんだかんなー」

「バツとして佐門くんには
 3年生になってすぐの
 学力テストの虎の巻を作って――」

タクミ
「佐門のばか」

佐門・比呂
「……ん?」

タクミ
「ばか。本当に、佐門の大ばか」

佐門
「なっ……」

比呂
「タ、タクミさん?」

タクミ
「なんにも言わないで勝手に行動して」

「誰も悪くないのはわかるけど
 佐門が責められてるとこ見てるの
 いやだった」

「何がしたいかわかんないから
 助けてあげることもできない……
 ほんとに、ばか。大ばか。ばか佐門」

佐門
「……」

比呂
「タクミが怒ってるの
 すっげー、レアじゃん……」

光希
「タクミ、お前のこと
 ずっと心配してたんだぞ?」

佐門
「悪い」

光希
「でも、それはタクミだけじゃない」

「なあ、佐門」

「何を考えて
 どうしてひとりで乗り込んで行って
 その後どうするつもりだったのかなんて
 わかんないけど……」

「もし自分だけで責任取ろうとしてたなら……
 こんなこと、もう二度とさせないし
 許さないからな」

「お前もSP!CAの
 大事なメンバーなんだから
 俺たちのことも、ちゃんと巻き込めよ」

佐門
「……」

「……巻き込んだつもりではいたんだ」

「どっちみち迷惑はかける。
 何か行動を起こせば、少なからずお前たちが
 とばっちりを食うこともわかっていた」

「でもそれでも、俺がかたをつければ
 お前たちなら――……」


「違うよ、錦戸」

「光希が言っているのは
 そういうことじゃない」

「頼ってほしかったって、ことだよ」

佐門
「……」


「前に錦戸が言ってくれたよね」

「翔也と凪と、色々あったとき。
 知らないと、一緒に戦えないって」

「俺たちだって、それと同じ気持ちだよ」

佐門
「……そうだな」

「お前たちには
 きちんと話しておくべきだった」

光希・比呂・梓・タクミ
「……」

佐門
「お前たちも知ってのとおり
 俺は元々MANAプロダクションに
 所属していた」

「はじめは普通に
 研修生としてレッスンを重ねて
 他の同期や先輩たちと一緒に
 デビューを目指していた」

「そんな中で、少しずつ戦略的な意見も
 求められるようになっていった」


「その頃から、今みたいなことしていたんだ」

佐門
「楽しかったよ。はじめは」

「自分の立てた戦略で、自分のユニットや
 事務所の他のユニットが少しずつ
 知名度を上げ、活躍の幅を広げていく」

「その実績が認められて
 デビューを果たした先輩ユニットへの
 意見を求められるようにもなった」

「だがそんな中で、あることに気がついた」





佐門
「どうしてですか!? おかしいでしょう!?
 プロモ期間に急に手を抜いて……」

「何故チャンスを
 譲るようなことをしたんですか」

事務所スタッフ
「だから言っただろう、会社の判断だと。
 方針には従え」

「お前なら理解できるだろう」

「――これはビジネスなんだ」




佐門
「純粋に上を目指す所属アイドルたちの一方
 どこかで作為的な力が働いていることに」

「そのすぐ後だった」





佐門
「……今、なんと?」

MANAプロ/プロデューサー
「何度も言わせるな」

「お前は明日から
 別のユニットで活動してもらいたい」

佐門
「どうしてですか!?
 これで二度目のユニット移籍ですよ!?」

「しかも今度は、やっとデビューが
 見えてきたっていうのに」

「うちのユニットがここまで来れたのは
 俺の戦略あってこそだと
 この間も褒めてくださったばかりじゃ」

「納得のいく理由を教えてください!」

MANAプロ/プロデューサー
「そういうところだ」

佐門
「……?」

MANAプロ/プロデューサー
「錦戸。
 たしかにお前は、歌もダンスもトークも
 うちの候補生の中ではトップクラスだ」

「だが、頭が良すぎる」

佐門
「は?」

MANAプロ/プロデューサー
「この世界では
 綺麗事だけじゃ生きていけない」

「デビューすれば、もっとたくさんの
 大人たちと関わることになるんだ」

「大人たちに気に入られてなんぼの世界では
 素直さと可愛げだけが重要」

「お前のように頭の回るやつは
 いずれ邪魔になる」

佐門
「――なっ」

MANAプロ/プロデューサー
「だが、お前のその洞察力や企画力は使えた。
 それに、候補生の教育係としても最適だった」

「ここまで重宝してやったのは、それが理由。
 今後もアイドルを続けていきたいのなら
 分をわきまえろ」




比呂
「……なんだよ、それ」

佐門
「笑えるだろう」

「だから俺は、そいつらを見返してやるために
 デビューして、ゴールドステージに
 上がりたかった」

「そして、そこで感じた不信感の正体を
 暴いてやりたかった」

光希・比呂・梓・タクミ
「……」

佐門
「話したことがなかったのは
 それくらいだ」

「今回独断で動いたのも……
 まあ、そんなところだ」

タクミ
「それであの時、あんなこと」

佐門
「濁して悪かったな」

光希
「佐門のこれまでのことも
 何がしたかったのかもわかった。
 でも……」

「……それだけとは言わないよな?
 SP!CAのメンバーとして
 一緒に頑張ってきたのは」

佐門
「馬鹿言え」

「たしかに、移籍してきた目的はそれだ。
 ……だが今は違う」

「今は、なんの損得勘定もなしに
 お前たちと一緒にやっていきたいと
 思ってるさ」

光希
「……佐門」

タクミ
「じゃあやっぱり、尚更ばか。
 ひとりで責任とるつもりだったって」

佐門
「う゛、随分引っ張るなお前……」

「――でもそれとは別に
 ランキングの裏側を暴いてやりたい気持ちも
 変わってはいない」

「アイドルだってビジネスで
 それがあってこその俺たちだと言うのは
 たしかにそのとおりなんだ」

「利益がなければ、活動なんてできない。
 そこに綺麗事を言うつもりはない」

「ただそれは、アイドルとファンの間で
 育まれたものの結果であってほしい」

「アイドルを評価するのは
 ファンの純粋な気持ちであるべきだ」

比呂
「へへっ! なんかさ、オマエ
 ヒーローみてーだな!」

佐門
「茶化すな」


「……ふふっ」

佐門
「?」


「ああ、ごめん。笑って。
 ただ……」

「錦戸が選んだのが
 うちの事務所でよかったなと思ってね」

佐門
「そうだな」

「……もう何度もそう思ってる」

光希
「――なあ、ひとつ提案なんだけどさ」

「やっぱり、ここで諦めたくないし
 俺たちもなんかできないかな?」

「このままみすみす、ゴールドステージに
 上がるチャンスを逃すのもアレだし……」

「それに、佐門の言う評価の話。
 俺もそのとおりだと思うから」

「だから、今黙ってるのはきっと違う。
 一矢報いるなんて、そんな大袈裟な
 もんじゃないけど、それでも……」

「俺たちが目指すもののために
 何か行動したい」


「そうだね」

「秋霜さんも、その道はちゃんと
 残されているって言っていたし。
 できること、考えてみようか」

「たとえばだけど――……」


...To Be Continued