Readyyy!

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2023.03.03

Readyyy! 第一部完結編 The Gold ~19 moments~ 最終章



達真
「――それで、合同ライブ?」

光希
「はい!」

「向こうがゴールドフェスをやるなら
 俺たちも、5ユニット全員で合同ライブ……
 ディアプロフェスをできないかなって」

「どんな結果になるかはわかんないですけど
 でも、本当の評価はそこにあると思うので」

小麦
「それ、すっごく楽しそうですねっ!
 ぼく、やりたいです」

淳之介
「綾崎、いつだったかも言ってたもんね。
 合同ライブやってみたいって」

小麦
「うんっ!」

千紘
「はーん、合同ねェ」

比呂
「イヤなのかよー。楽しそうじゃんかー」

千紘
「誰がいつ文句言ったよ。
 別に反対する気なんかねェって」


「っしゃーー!
 やってやろうじゃねぇか!」

「オレたちのこと舐めると痛い目見るって
 教えてやんよ! なぁ、蒼志!」

蒼志
「ふふっ」

淳之介
「急にチンピラ!
 どこのヤンキー漫画!?」

弦心
「でも、フェスって……
 どこでやるんだ?」

「5ユニットでやるなら
 それ相応の大きな会場が必要だと思うけど」

亜樹
「あ、今月末に空いてる会場見っけ」

凛久
「調べんの早……」

亜樹
「あ〜……でも
 ゴールドフェスの会場のほぼ真ん前だ」

「しかも、日程もドンピシャ」

雅楽
「だから空いてるんだろうな」

「わざわざ客が取られるかもしれない場所に
 陣取ろうとする物好きも、普通はいない」


「だったら、そこでやろうぜ!」

「どーせもともと、ゴールドフェスに
 対抗するつもりだったんだしよ。
 わかりやすくていいじゃねぇか!」

比呂
「たしかに!
 喧嘩する時は相手の顔見てやれ、って
 最近読んでる漫画にも書いてあった!」

淳之介
「紛うことなくヤンキー漫画!」


「他のみんなも、異論はないかな?」

達真
「ああ! やろう」

光希
「じゃあ――」

「プロデューサーさん。
 俺たちのこと、手伝ってくれますか?」

「できることは、自分たちでやります。
 でも、俺たちにはできないことも
 いっぱいあるから」

「プロデューサーさんに
 力を貸してほしいんです」

プロデューサー
「もちろんです」

「皆さん自身がそうと決めたことなら
 私も全力でサポートします」

光希
「ありがとうございます!」

佐門
「じゃあ、このあとの流れだが――……」

十夜
「プロデューサー。
 ひとまずお前は会場を抑えろ。
 最優先事項だ」

プロデューサー
「はい」




プロデューサー
(さて……)

(きっとこれが
 18人のプロデューサーとしての
 私の最後の仕事だ――)




淳之介
「それでは〜……」

「ディア・プロダクション
 全体作戦会議を始めまっす!」

「まずは戦略リーダの錦戸さん
 お願いします」

佐門
「やりづらさしかないだろう!」

「……ゴホン、まあいい」

「いいか。
 やる以上は、本気で仕掛ける必要がある」

「順当に考えれば、ファンの数や注目度は
 圧倒的にゴールドフェスの方が上だ」

「"いつもどおり"では
 相対的に見劣りするのは確実」

「来客数、開演前後の話題性、そしてもちろん
 パフォーマンスのクオリティ。
 そのすべてにおいて
 100%以上を出さなきゃ意味がない」

「ゴールドステージのアイドルと比べて
 俺たちが勝るところはなんだ?」


「全部!」

亜樹
「……もしそうなら、とっくの間に俺たち
 ゴールドステージ1位だって」

雅楽
「歌唱力」

佐門
「そんなわけないだろう。
 どんだけ自信満々だ」

「真面目に考えろ。
 お前たちはここで何を学んで
 プロデューサーさんに、何を教わってきた」

安吾
「自主性、ですか……?」


「それから、創造力も
 Pちゃんが伸ばしてくれた
 ボクたちのいいところだよ」

「おかげでここ1年は創作が捗っちゃって
 もう、ボクとタツマンとこむぎとりくの
 部屋だけじゃ、収まりきらないんだよね〜」

凛久
「人の部屋を物置みたいに言うなよ!」

安吾
「参加アーティスト数が多いのもそうですが
 ゴールドフェスを主催しているのが
 ランキングの運営会社となると
 個々に寄り添った演出やプロモーションは
 得意ではないかもしれません」


「そうだね」

「でも俺たちは、ちゃんと自分たちの強みを
 理解できているはずだから
 うまくセルフプロデュースができれば……」

比呂
「勝機ありってことだよな……!」

佐門
「ああ」

十夜
「そうと決まれば
 役割は分担したほうがいい。

 人数の多い話し合いは時間を浪費するだけだ」


「じゃあオレたちは、PR担当!
 初代宣伝隊長の実力、見せてやんよ!」


「ボクはデザインやろ〜っと」

小麦
「凛久はどうするの?」

凛久
「俺は……衣装、とか?」

タクミ
「じゃあ、一緒にやろうか」

凛久
「う、うん……!」


「タツマンは舞台設営だね♪」

達真
「……なんで問答無用で
 力仕事なんだよ」

亜樹
「――ね、蒼志」

蒼志
「? なんだい、亜樹」

亜樹
「いやあ……
 やっぱこっちの方が
 楽しいな〜って思ってさ」

「ねっ」

蒼志
「ふふっ」

「うん、そうだね」







事業部長
「プロデューサー」

「会場設営スタッフと
 当日のスタッフの手配はできた」

プロデューサー
「ありがとうございます!」

事業部長
「この後、チケット販売の段取りについて
 少し話をしたいんだが……
 その前に、お客さんが見えている」

プロデューサー
「どなたでしょう?」

ヴォーグスタッフ/鴨井
「あの……。
 お忙しいとこ、すいません」

プロデューサー
「!」




プロデューサー
「――え?」

ヴォーグスタッフ/鴨井
「僕ら現場には伏せられていた情報とはいえ
 さすがに申し訳なくて」

「お詫びなんて
 そんなぬるい話じゃないのは
 わかってるんですが……」

ヴォーグスタッフ/園辺
「少しでも、ここまで一緒にやってきた
 まてロケや、ディアプロの皆さんの
 お力になりたいんです」

「なので僕たちにも
 手伝わせてくれませんか」

プロデューサー
「でもそんなことしたら
 我妻さんや会社の方から……」

ヴォーグスタッフ/鴨井
「いいんです。腹は括ってますよ」

「あの子たちは、覚悟を決めて
 アイドルという仕事と向き合ってるんです」

「そんな彼らを担当する
 音楽プロデューサーの僕らが、覚悟も
 ないなんて……示しがつかないでしょう」

プロデューサー
「! ありがとうございます。
 では、よろしくお願いします!」

「4人もきっと、心強いと思います」





蒼志
「佐門さん……!
 OurTubeのスタッフさんたちと
 話がつきました」

「全世界同時配信
 協力していただけるそうです」

亜樹
「それからPR用の動画は
 T.O.Pの時のスタッフさんが
 撮影と編集手伝ってくれるって!」

佐門
「! よく味方につけられたな」

淳之介
「前お世話になったとき
 仲良くなっといたんで」

佐門
「……お前たちだからできる芸当か。
 なんにせよ、よくやった」

蒼志・全・淳之介・亜樹
「はい!」




弦心
「雅楽、リハの様子SNSに上げたか?」

雅楽
「今やってる」

「にしても……何を書けばいいんだ、これ」

弦心
「俺が書こうか?
 雅楽、こういうの慣れてないだろう」

雅楽
「ああ、その方がいい」

弦心
「よし。ええと……
 『ご覧の皆様、お元気ですか?
 本日ディア・プロダクションでは……』」

雅楽
「……待て、ゲン」

「どう考えても、それ……
 お前も慣れてないだろ」

千紘
「貸せよ。……ッたく
 揃いも揃って下手かって」

「オンラインでのファンとの交流とか
 絶対ェオマエらには向いてねェだろ」

弦心
「すまない、碓井」

「でも、普段やらない俺たちが
 そういうことをするのが
 集客や話題性にも繋がるはずだって
 錦戸さんが言ってたから」

「今晩のライブ配信は、頑張るよ」





「Pちゃん、チケットのデザインと
 パンフのデザイン。
 こんな感じでど〜お?」

プロデューサー
「ありがとうございます……!
 けど、もうちょっと商業よりの
 デザインにしていただけると……」


「プロデューサーさん。
 セトリはこんな感じでどうでしょう?」

プロデューサー
「ありがとうございます。
 確認しておきますね」


「あとできれば、演出の一環で
 客席をくまなく回れるような
 仕組みを作れるといいんですけど」

達真
「じゃあ、花道だけじゃなくて
 トロッコ用意してもらうとか」

プロデューサー
「リフターはスケジュール的に
 難しそうですけど
 トロッコなら行けそうですね!」

「ヴォーグの鴨井さんたちも
 協力してくれることになったので
 特効系とあわせて、相談してみます」




凛久
「衣装って、これだけで足りる?」

タクミ
「うん、大丈夫。
 あ。でも、アンコール用のTシャツは
 用意したいね」

凛久
「デザインは柳川にやらせてもいいけど……
 アイツ間に合うかな」

「高千穂にイラスト描かせたら
 ただのキャラTになりそうだし」

小麦
「あ! じゃあ……
 ジャパン・ティーンズコレクションの時に
 お世話になったスタイリストさんに
 相談してみようよ!」

「名刺もらったよね?」

凛久
「たしかに……!
 話しやすい人だったし、ありかも」

タクミ
「ヘアメイクさんも一緒に
 手伝ってもらえないか、聞いてみようか」

小麦
「はい!」




佐門
「社長。ゴールドフェスの方のチケット
 販売状況はいかがですか?」

社長
「もちろんSOLD OUTだね」

事業部長
「それはそうでしょう」

「同じ日程で、しかも近隣の会場。
 真っ向勝負で勝てる見込みは……」

プロデューサー
「見込みがなかったとしても
 その方法を考えるのが、私たちの仕事です」

事業部長
「――」

プロデューサー
「そういえば、ゴールドフェスの
 タイムスケジュールって
 もう出てましたよね?」

事業部長
「え? ああ。
 たしか……あった、これだ」

安吾
「なるほど。“フェス”というくらいだから
 入退場は自由なのか……」

「会場が近隣であることを逆手にとって
 こっちに流れて来るように
 誘導できないでしょうか」

佐門
「それなら、うちの開演時間を
 フェスの入退場が多くなりそうな
 タイミングに設定すればいい」

十夜
「第一部と第二部の間か」

「既にチケットを持っている観客の
 入場列を見せれば
 多少は大衆心理を煽ることができる」

プロデューサー
「じゃあ、当日券を多めに確保しましょう!
 それと、入場口の場所も工夫します」

安吾
「SOLD OUTなら
 チケットを持っていなくても、音漏れ目的で
 集まるファンもいるかもしれません」

「こっちは屋外の会場なので
 もし興味を引ければ……」

佐門
「ああ、興味を引ければそれでいい」

「動員数がランキングに
 直結するわけじゃないんだ。
 配信をアーカイブで残しておいて
 後日見てもらえれば
 その再生回数がランキングに加算される」

プロデューサー
「アーカイブは手配済みです。
 配信のSNS広告も、枠は確保してあります」

佐門
「ははっ、さすがです」

事業部長
「……なんだか生き生きしてますね」

社長
「はははっ、そうだろう」

「先が見えない時は
 誰でも行動に迷いが生まれるものだよ」

「成長途中のアイドルと
 プロデューサーともなれば、特にね」

「でも、ひとつ向かうべき道を見つけたら
 びっくりするほど強いんだ。
v18人も、プロデューサーくんも」

事業部長
「……」

プロデューサー
「――よし。じゃあ今晩
 フェスの告知を流しましょう!」







♪〜♪〜♪〜♪〜

振付師
「――はい、オッケー」

「じゃあ一旦休憩入れて、そのあとラストに
 全体曲の立ち位置確認やるよ」

一同
「はい!」

振付師
「プロデューサーさん。
 これ、本番の時の導線図、渡しておきます」

プロデューサー
「助かります」

安吾
「そういえば、今日は稽古はないのか?」

蒼志
「あ、はい。他の共演者の方々の
 スケジュールがあわず」

安吾
「そうか」

蒼志
「安吾さんが付き合ってくださるおかげで
 最近は演出家の方にも
 褒めていただくことが増えました」

安吾
「それはよかった」

千紘
「オマエ、人の稽古なんて付き合ってて
 へーきなんかよ。自分だってドラマあんだろ」

安吾
「まあな」

「でも俺の場合、もう役作りはできているし
 こう見えて、台本を覚えるのも
 苦手じゃない」

千紘
「誰も台本覚え悪そうなんて
 思っちゃねェけど……
 っんとに、面倒見だけはいいよな」

安吾
「そんなつもりはないが」

「……でも、そうだな」

「今回は、どこかの誰かさんのお節介を見て
 少し感化されたのかもしれない」

千紘
「……ア?」

◇◇◇◇◇

パタパタっ

凛久
「ねえ、これ見て!
 ゴールドフェスの追加出演者発表されてる」

一同
「!」

雅楽
「……ふぅん。次の標的は
 プリンスコートだったのか」

弦心
「! プリンスコートって……
 あの時の……」

雅楽
「フンっ。ここまでくると
 さすがに所属アーティストには同情する」

「ヤツらは、本質を見てくれる存在に
 出会えなかったんだ」

弦心
「……雅楽」

比呂
「てか、思ったんだけどさ」

「コイツらがフェス出るってことは
 ゴールド入りしたのもコイツらだろ?」

「オレらがフェスやる前に、ゴールド
 ステージのメンツが固まっちゃったら
 オレら入る余地なくね?」

小麦
「たしかに……そうですよね」

「運営さんが関わってるなら
 なおさら……」

佐門
「いや、そうでもない。今回ばかりは
 当初の予定が急変したことが幸いした」

「施策は急ごしらえ。
 ステージアップしたと言っても
 順位もポイントもギリギリ」

「今畳み掛ければ
 入り込めるチャンスはいくらでもある」

淳之介
「そっか……!
 もともとは、オレらが出る想定で
 ずっと施策も準備も進んでたんスもんね」

「そんなすぐには、整えらんないのか」

「……ちょっとでも役に立てたならよかった」

「前に事業部長も、この機会を逃したら
 ゴールド入りは難しくなるって言ってたし」

プロデューサー
「まてロケの皆さんが気にすることじゃ……」

淳之介
「ああ! 違うんスよ!
 そういうんじゃなくて」

プロデューサー
「?」

亜樹
「俺たちさ、やっぱPちゃんのことも
 諦めたくなくて。
 だからここで、ゴールド手放したくないんだ」

プロデューサー
「……亜樹さん」

タクミ
「みんな、同じ気持ちだよ」

プロデューサー
「……」

「ありがとうございます。
 気持ちはすごく嬉しいです」

「でも……水を差すのはなんですが……
 事業部長の言うとおり
 ひとりじゃ支えきれないのは事実だと
 今回の件で実感したんです」

一同
「……」

プロデューサー
「恥ずかしながら私も、この先の
 ゴールドステージに向けて、皆さんを
 どういう風にプロデュースしていくのが
 最善なのかと、ずっと悩んでいました」

「その結果、判断を誤りました」


「まだ言ってんのかよ……!」

プロデューサー
「でも、それでよくわかったんです」

「プロデューサーとしての
 私の一番の願いが」

一同
「……」

プロデューサー
「――今しかないこの一瞬」

「皆さんには、ファンのために、そして
 自分のためにアイドルでいてほしい」

「その一瞬一瞬が繋がり、線となった
 その先の未来で、アイドルであることに
 誇りを持っていてほしい」

「いつまでも、そんな皆さんでいてほしい」

光希
「プロデューサーさん……」

プロデューサー
「それが達成できるなら
 私じゃなくてもいいんです」

「だから皆さんも、あまりこの話に
 こだわり過ぎないでください」

達真
「それは……
 俺たちの気持ちは、どうなるんですか?」

プロデューサー
「え?」

蒼志
「プロデューサーさんが
 どう思っていたとしても……」

「その願いを叶える時は
 プロデューサーさんが一緒でなくては
 意味がありません」

一同
「――」

光希
「プロデューサーさんは
 ずっと俺たちのプロデューサーでしょう?」

雅楽
「変な責任を感じてるくらいなら
 そこにも責任を持て」

十夜
「ここまで連れてきておいて
 途中で役を降りようとするとは……
 誰が許すと思っている」

プロデューサー
「……皆さん」

佐門
「そういうことですよ
 プロデューサーさん」


「――さあ、リハの続き始めよう」

「なんにしても、結果を出さないと
 始まらないからね」






  ――そして、フェス当日。




小麦
「チケット、予想よりも出てるみたいで
 よかったですね!」


「ボクのデザインがよかったのかな〜?
 ムッシュ・アイドル・ヤナガワ作って
 将来プレミアがついちゃうかもね!」

凛久
「なんでミドルネーム
 みたいなのがついてるんだよ」

「こんなありふれたチケット1枚に
 プレミアなんてつくわけないだろ」

達真
「ははっ。
 そんな言い方するなよ、凛久」

「プレミアは……わかんないけど……」

「でも、このチケット1枚1枚が
 お客さんと俺たちを
 繋いでくれるものなんだから」

「みんな、俺たちがきっといいステージを
 見せてくれるって信じてるから
 チケットを買ってくれる」

「そう考えれば
 ありふれたチケットじゃなくて
 何よりも大事な宝物に見えて来ないか?」

小麦
「えへへっ。
 信頼関係、ですね!」

達真
「ああ」


「タツマンいいこと言うね〜。
 じゃあタツマンのチケットに
 特別にサインしてあげる♪」

小麦
「わあ、ぼくも欲しいです!」

凛久
「……バカだな」

「オマエらには
 緊張感ってものはないのかよ」

  ◇◇◇◇◇

安吾
「当日券もかなり捌けているらしい。
 策が功を奏したな」

十夜
「あれだけの人数で知恵を絞ったんだ。
 結果が伴わなければ困る」

安吾
「そうだな」

「それにしても……
 本当にこの短期間で
 これだけのものを作り上げるとは」

「このステージからの景色を見ていると
 掲げた夢も、いつか必ず実を結ぶような
 気がしてくるから不思議だな」

十夜
「気がしてくる、で終わらせるつもりはない」

「それを証明するために
 これからゴールドステージへ向かうんだ」

千紘
「ハッ。さすが、ビッグマウスゴリラ」

「でも、そうだな……!
 一発ブチかましてやっか」

「出過ぎた杭は打たれねェっつーし
 見てろや、ゴールドステージ」

  ◇◇◇◇◇

弦心
「雅楽、そろそろスタンバイだ」

雅楽
「ああ」

弦心
「俺たちが作ったこのステージで
 音楽の本当の力とか価値とか……
 たくさんの人に伝えよう」

「裏切らないものは、必ずある」

雅楽
「知ってる」

「だからオレたちも、今日ここに
 集まった観客の期待を裏切らない」

「音楽に乗せるのは
 嘘偽りない、本当の想いだけだ」

弦心
「そうだな」

雅楽
「……それと、ゲン」

「このライブが終わって
 もしゴールドステージに入れたら……」

「ひとつ、頼みがある」

弦心
「頼み?」

  ◇◇◇◇◇

亜樹
「蒼志。はい、コレ。
 一応動きメモっといたから
 出番ギリギリまで確認しときなよ」

蒼志
「ありがとう、亜樹。
 助かるよ」


「しっかし、大変だったろ?
 舞台の稽古も本格的に始まって
 こっちの準備も、なんてよ」

蒼志
「そうだね……。
 でも、全然苦ではなかったよ」

「稽古で疲れて帰っても
 みんなが楽しそうに笑っていたから」

淳之介
「……蒼ちゃん」

「オレ……なんだかんだ言って
 ちょっと焦ってたんだろうな〜」

「GALAXY TOKYOの件もあって
 いつか終わりが来るのかもって思ったら
 後悔しないように、今できること
 ちゃんとしとかないとって」

「……でも、後悔しないって
 目に見える結果だけが
 すべてじゃないんだよね」

蒼志
「うん」

「プロデューサーさんも仰っていたように
 アイドルであることに誇りを持って
 やっていきたい」

「それがきっと、後悔のない
 ということなんだと思う」


「そのためにはやっぱり
 どんな時でもオレたちが楽しまないとな!」

亜樹
「へへっ、それが俺たちの原点だもんね!
 今日のステージも楽しもうよ!」

  ◇◇◇◇◇

比呂
「いや〜、オレら
 よくここまで頑張ったよな〜!」

「大変なことも山程あったけど
 それでもこうやって
 ゴールドステージに挑めるくらいの
 力がついたんだぜ!?」

佐門
「……そうだな」

「いろんなものに背を押された結果ではあるが
 ……これも間違いなく成果だ。
 空っぽの道じゃない」


「そうだね」

「今まで頑張ってきたことも
 選んできたものも……考えてみれば
 きっと何も間違っていなかったんだろうね」

「だからこそ、俺は今がすごく楽しい」

「それに、これからもそうでありたい」

タクミ
「うん」

「みんながそれぞれできることをやって
 それがひとつになったから……

 こうして、僕たちにしかできないことを  実現できた」

光希
「ああ」

「まだまだ夢の途中で
 目指してる”何か”にはなれてないけど
 俺たちにはきっともっと可能性があるから」

「だから、それを信じて
 ステージに立とう!」




プロデューサー
「――それじゃあ、皆さん。
 スタンバイお願いします!」




比呂
「みんな今日はありがとなー!!」

千紘
「前も後ろも、端から端も
 全部見えてたかんなー!」

  ワーーーーッ




社長
「うん、いいステージだったね」

プロデューサー
「はい」

事業部長
「配信の視聴数も、いい感じだ。
 ゴールドフェスから流れて来た人も
 かなりいたらしい」

「あとは結果に繋がるかどうか、だな」

プロデューサー
「……」

「こんなこと彼らの前では言えませんが……
 正直言うと、今はまだ数字に繋がらなくても
 いいんじゃないかと思っています」

「これまでは、ランキングの数字が
 彼らを応援してくれる人たちの
 声の代わりだと思っていました」

「でも、それがすべてじゃないから」

「声は声なんです。
 この歓声がその答え」

「みんなの真っ直ぐな想いが
 この歓声を生んだんです」

「みんなには、この曇りない歓声を
 ずっと浴びていてほしい」

「今はそれ以上、望みません」

社長
「ははっ、そうだね」

観客
「アンコール! アンコール!
 アンコール! アンコール!」

亜樹
「みんなアンコールありがとー!」


「期待に応えたいから、出てきちゃった〜♪」

安吾
「それじゃあ、ラストに1曲だけ」

光希
「この曲は、俺たちを信じてくれるみんな。
 応援してくれるみんな」

「そして……」

「俺たちを一番に理解して
 ステージの下でいつも支えてくれる
 大切な19人目の仲間に向けて
 捧げたいと思います」

「……聴いてますか?
 プロデューサーさん」

プロデューサー
「!」

光希
「それでは聴いてください」

一同
「『たったひとつのありがとう』」




蒼志
「プロデューサーさんが
 どう思っていたとしても……」

「その願いを叶える時は
 プロデューサーさんが一緒でなくては
 意味がありません」

光希
「プロデューサーさんは
 ずっと俺たちのプロデューサーでしょう?」

雅楽
「変な責任を感じてるくらいなら
 そこにも責任を持て」

十夜
「ここまで連れてきておいて
 途中で役を降りようとするとは……
 誰が許すと思っている」









プロデューサー
「……社長、事業部長」

「それ以上は望まないって言いましたけど……
 ひとつだけ、わがままを言ってもいいですか」

社長
「なんだい?」

プロデューサー
「やっぱり私……
 彼らの、18人全員の
 プロデューサーでいたいです」

「まだまだ未熟なのはわかっています。
 だから……」

「手を貸してください」

「彼らを、これからもずっと
 支えていけるように」

「彼らの夢と
 彼らに託されたたくさんの願い――」

「その行き着く先を
 誰よりも近くで、見届けたいんです」







光希
「せーのっ……」

一同
「ありがとうございました!!!!!」















  ――1ヶ月後。








  4月某日・Shirasu House

  ドタバタッ


「やっべー、遅れる!!」





「亜樹、オレ先行くかんな!」

亜樹
「待ってよー! なんで置いてくの!?」


「だから言ったろ!
 今日から朝練、1年生も参加すんだって」

「オレ様が遅れてったら
 カッコつかねーだろうが」

「なんてたってオレ様……
 “伊勢谷先輩”だかんな!
 んなーっはっはっ!」

亜樹
「あー、はいはい。そゆことね。
 いってらっしゃい、伊勢谷センパイ」

淳之介
「結局ファンクラブはできなかったって
 嘆いてたのに、立ち直りが早いあたりは
 さすが全ちゃんよね」

亜樹
「それ淳之介が言う?
 ブーメランのくせに」

淳之介
「やめたげて」

安吾
「お前たちは2年生になっても
 朝から賑やかだな」

蒼志
「すみません。騒がしくて」

安吾
「いや、いい。その方が安心する」

蒼志
「ふふっ、はい」

  ◇◇◇◇◇

佐門
「……!」

達真
「? どうしたんだ、佐門。
 青い顔して」

佐門
「ああ、いや……今日提出の論文が
 終わっていないことに
 気づいてしまった……」

比呂
「あっれ〜? 佐門でもそんなことあんだな。
 いっつも人にばっかお小言いうのにぃ〜。
 なあなあ?」

佐門
「黙れ、五十嵐!」

「昨日の夜、誰の勉強を
 見ていたせいだと思ってる!」

比呂
「ぎゃーーっ」

達真
「……なんでわざわざ煽りにいったんだよ」


「『逆鱗に 自ら触れゆく 仲間愛』かな?」

達真
「ああ、ははっ。
 どこも似たようなもんってことか」

「で、佐門。
 今日は大学、何時からなんだ?」

佐門
「午後からだ」

達真
「じゃあ、送ってってやるよ。
 ちょうどダンスのソロ練に呼ばれてて
 俺もそっちの方に行くし」

「車の方が早いだろ?
 出る時間を遅らせられる分
 少しは進められるんじゃないか?」

佐門
「悪いな。助かる」


「じゃあ俺もお願いしていいかな?
 撮影の前に寄りたいところがあるんだ」

達真
「ああ、もちろん」

  ◇◇◇◇◇

小麦
「凛久、ちゃんと学校行くんだよ?
 クラス替えしたんだから
 顔出さないと、お友達できないよ?」

凛久
「だから……行く必要ないんだって!」

「っていうか、明石が卒業して
 少しはうるさいのいなくなったと
 思ったのに、どうして今度は
 綾崎が明石みたいなこと言うんだよ!」

「……明石と柳川のウザいとこにばっか
 似てきやがって」


「あっはは♪
 じゃあこむぎはボクの分身だ!」

「こむぎがいてくれたら、ボクがりくから
 目を離しても安心だね」

凛久
「はぁ?」

「オマエまた変なこと考えて……」


「だってボクはアイドルだから
 ステージ上ではりくのことじゃなくて
 ファンのみんなのこと見ないとでしょ〜?」

小麦
「わあっ……!
 それ、柳川さんのファンのみんなが聞いたら
 絶対喜びますね!」

凛久
「……オマエ、またそうやって
 紛らわしい言い方ばっかしやがって!」


「ははっ♪ ほーら、追いかけておいで〜♪」

ドタバタっ

十夜
「……はぁ。朝からなんなんだ」

千紘
「今更だろ」

「つーか、うるせェのがヤなら
 出てきゃいいのに。
 大学生サマは、自由なんじゃねェの?」

十夜
「だとしても、ここの方が都合がいい。
 仕事の連絡も移動も、タイムロスがない。
 設備も万全だ」

千紘
「ハッ。っんとにテメエは
 へそ曲がりゴリラだな」

「他のヤツらみてェに、ここにいたいって
 カワイイこと言えねェのかよ」

  ◇◇◇◇◇

タクミ
「ねえ、プロデューサーさん。
 弦心くんは? 学校遅れる」

プロデューサー
「ああ。今日はお休みをとっているんです」

タクミ
「仕事?」

プロデューサー
「いえ。そうではなくて――……」




弦心
「すまない、雅楽。
 こんな遠くまで来てもらって」

雅楽
「いや。連れて行けと頼んだのはオレだ」

弦心
「ははっ。驚いたよ、あの時は」







雅楽
「このライブが終わって
 もしゴールドステージに入れたら……」

「ひとつ、頼みがある」

「アイツに……クリスに一言
 オレからも言いたいことがあるんだ」







弦心
「でも、嬉しかった」

雅楽
「……ふんっ。
 いいから、早く案内しろ」






光希
「先行くぞー、比呂」

比呂
「待ってくれよ、光希ぃ、タクミぃ〜!」

「Pちゃんごめん!
 オレの体操着とって〜〜!」

プロデューサー
「え!? どこですか!?」

  バタバタっ

千紘
「……ほらよ、これだろ。
 ソファの上置きっぱにすんなっつの」

比呂
「うおー! 千紘ぉ、さんきゅー!!」

「ごめん、Pちゃん!
 千紘が持ってきてくれた!」

プロデューサー
「えぇ……」



TVのナレーション
『それでは、最新の
 アイドルランキングの発表です』

『注目株はなんと言っても
 ゴールドステージの狭き門を
 ガツンと突き破ってきたこの面々――』



タクミ
「早く行こう、比呂。千紘くん。
 学校遅れるよ」



TVのナレーション
『ディア・プロダクション所属
 SP!CA!』

『そして――』



千紘
「待ってなくていいっつったろ。
 ひとりで行くって」

比呂
「同じ学校だろ♡」

千紘
「ンだそれ、だるっ」



TVのナレーション
『同じく、摩天ロケット!
 Just 4U! RayGlanZと、La-Veritta!』

『3月に行われた
 ディアプロフェスからの大快挙!』



光希
「じゃあ、プロデューサーさん」







「「行ってきます!」」



プロデューサー
「はい、行ってらっしゃい!」





TVのナレーション
『彼らの今後の活躍から目が離せません!』




Readyyy! 第一部完結編
The Gold ~19 moments~ <完>